□泉 幸甫:材料の現代における活かし方、もののより良い存在のさせ方など、ものをつくる原点から考える。設計者はモノづくり的でなければならない。木のこと、和紙のこと、鉄のこと、建具のことだとか、いろいろな素材の知識を増やし、わかるようになると設計の中に取り込み、全体を構成することができるようになる。研究した素材を建築に取り入れることを基本とした思考法が確信へ変わる。職人が塗ったものは、真っ平でなくても、真っ平に塗ろうとする姿勢があると、美しく見える。人間の丁寧にものをつくっていこうとする心を感じ取ることは生活を豊かにするかけがえのないものかと。今風のつくり方に流されている。新しい美意識をつくっていく必要がある。コンピューターと連動させていく生産システムも考えないといけない。優秀な左官は、自分がこうやりたいという美意識をもとにして仕事をしている。また、それを実現する手段も非常に自由なスタンスをとっている。藁苆・砂・粘土(+水)の三つ巴の関係をうまくあんばい加減を考えてつくるのが「左官」だとわかる。左官はなんにでも塗れるし、ガラスにだって塗れる。
榎本新吉:「俺はプロじゃねえよ、職人だよ、職人は失敗したっていいんだよ。失敗したらやり直せばいいじゃねえか。職人は可能性なんだよ。限界なんかねえんだよ。だから俺は名人じゃない。迷人なんだよ。いつも迷ってるっていうんだよ。プロなんかなったらだめだよ、職人になれよ」
以前は、障子の組子は紙の寸法はら決まっていたが、今は大判の紙で自由にデザインできる。「障子っていうのは向こうの世界を感じ取れるようなものじゃなきゃいけない、そこはかとなく、向こうの世界が感じられなきゃ駄目だ」「やたらと組子のデザインが入ってくると外が感じられなくなる。それは障子じゃない」
現実を批判的に見直したいという気持ちが通奏低温のように流れている。新しいスタイルを切り開き、今まで通りではない自分らしい設計事務所とか活動をして、建築を楽しむ。