第9回② 構造不具合の原因と対策⑤ 伝統木造の耐震設計の考え方 岩波正 2023.10.2

限界耐力計算:伝統構法建築に向いた耐震設計法。
 建物が地震の力を受けたとき、地盤や建物の状況をちゃんと把握して計算する優れた計算方法。
 地震により、建物が損傷して変形し、そのまま倒壊するのか、それともどの零度で耐えるのかを計算により判断する方法。

伝統構法の建物について言われていること
:伝統構法は柔構造だから地震に強い
:伝統構法は地震の力を受け流すから強い
:伝統構法は石場建てだから強い
:建物と地面が直結していないので地震力の入力を低減する
:伝統構法の建物は総持ちである
:伝統構法は建物全体で揺れを分散させるので崩壊しにくい
:仕口や継手が関節のようにある程度動かないと力を吸収できない
:伝統構法は免震構造である
:古い建物が何百年も建ち続けているのが強さの証明
→根拠を持つことが必要

建築基準法で、伝統構法は置いて行かれている。

伝統構法木造建築物に「限界耐力計算」が使われる理由
1.石場建て、金物不使用など建築基準法の仕様規定に合わないから
2.建物の固有周期が長い。動きが違うのを評価する
3.建物の構造的特徴が「限界耐力計算」で活かすことができる
:開放的な間取り(壁が少ない)
:貫や差鴨居、長ほぞ、落とし込み板壁
:垂れ壁、腰壁
:太い柱(傾斜復元力)、大きな梁
:格子板壁

建築物の地震に対する安全性を検討するには(基本)
1.建物の耐力を計算する
2.建物に入力される地震力を計算する
3.両者の力を比較する
:建物の変形により建物の耐力は変わる
:建物に入力される地震力も建物の変形により変わる(小さくなる)
 建物が変形すると固有周期が長くなる。建物の固有周期が長くなると、建物に入力される地震力が小さくなる。地震力より建物耐力のほうが大きくなり、変形はその時点で止まる。耐える。

□地震力より、建物の耐力が大きければ建物は倒壊しない。
□建物が、どういう状態(変形角)の時に、地震力より建物の耐力が大きくなるかを調べる。
□具体的には、建物の層間変形が1/120、1/60、1/30、1/15の時を検討する。
(H=3Mとして、1/120(25mm)、1/60(50mm)、1/30(100mm)、1/15(200mm))
□地震力の低下を利用するためには、
:建物の変形が進んでも耐力が落ちないこと
:仕口・継手に変形性能があり、こわれないこと。めり込みながら耐える。ことが必要。
在来工法の安全ゾーンは1/30伝統構法の安全限界が変わるゾーンは1/15

限界耐力計算の概要 まとめ
:現代型木造住宅は剛性が高く、固有周期が短い。変形して固有周期が長くなる前に接合部が壊れる。だから耐力勝負するしかない。
(限界耐力計算をしても意味がない)
:開放的な間取りを活かした住まいを作るためには、少ない耐震要素をうまく活用する必要がある。それができる計算方法が限界耐力計算である。
:開放性の高い伝統構法の建物を現行の仕様規定でチェックするのは、超高層の建物を一般の中高層洋の基準で計算するようなもの。
:伝統構法の建物は、変形性能を考慮すると少ない耐震要素でっも大地震にも耐えることが出来る。しかし、変形が大きくなり固有周期が大きくなることが条件なので、大地震時は建物の変形が大きく、地震には耐えるが、仕上げなどの損傷が起こることは受け入れなければならない。

□建物の変形が進むと建物の剛性(K)が小さくなる
建物の剛性 K=Q(耐力)/σ(変位)
□建物の剛性が小さくなると固有周期(T)が大きくなる
建物の固有周期 T=2π√M/K  M:質量
□地震により建物にかかる力は建物の重量に地震による加速度をかけたもの
Qn(地震力)=M(質量)×Sa(加速度)
□建物の重さが一定であれば建物にかかる地震力は地盤から建物が受ける加速度の大きさで決まる
S0:工学的基板上の加速度応答スペクトル
Gs:表層地盤による加速度の増幅率
加速度応答スペクトルSa(Sad Sas)
稀に発生する地震 Sad=S0d・Gs・Fh・p・q・Z
極めて稀に発生する地震 Sas=S0s・Gs・Fh・p・q・Z
表層地盤による加速度増幅率Gs
第1種地盤、第2種地盤、第3種地盤での計算式
振動の減衰による加速度の低減率Fh
Fh=1.5/(1+10h)  h=heg+h0=(1/4π)(ΔW /W)+0.05

まとめ
:建物は地震による力を受けると損傷する
:建物が損傷すると変形し、剛性が低下する
:剛性が低下すると建物の固有周期が長くなる
:固有周期が長くなると建物に入力される加速度は小さくなる
:建物は振動を繰り返すことにより加速度は減衰する
:建物に入力する加速度が小さくなると建物が受ける地震力が小さくなる
:建物の耐力が変形しても落ちなければ、地震力より建物耐力が大きくなる地点がある
:その時の変形が建物の応答値であり、その変形角が伝統構法のように変形能力がある耐震要素で作られている場合、1/15より小さければ建物は倒壊しないと判断する。
:建物の倒壊を防ぐには、建物の加重を減らすことが効果的