劣化事象から学ぶ耐久性向上設計 中島正夫・関東学院大学建築・環境学部 名誉教授


1:木部の劣化→風化、カビ、変色、虫害、腐朽、蟻害
2:接着層の劣化→合板、集成材、CLTなど木質材料の剥離、強度劣化
3:鋼材(鉄筋、接合金物、接合具)の劣化→錆害、硫酸塩劣化、アルカリ骨材反応など
近年の腐朽被害実態:浴室のひび割れ原因、バルコニー屋根ドレインの水漏れ、遠赤外線処理木材20年持たない
近年の蟻害被害実態:基礎の外断熱材からヤマトシロアリ(壊さなければわからないことが多い)


■木造建築物の耐久計画・設計の基本
:木材・木質材料を構法的に水から遠ざけつつ、材料としての欠点を補う保存措置および維持管理を併用していく。
①劣化外力の把握→ヤマトシロアリは全国に分布
②構法による劣化防止1→雨水・結露水・シロアリへの配慮、軒の出の効果(雨の跳ね返り:基礎高)
③構法による劣化防止2→屋根からの漏水による下地、小屋組の劣化とルーフィングの耐久性
④構法による劣化防止3→外壁通気工法:通気層は事故的に侵入した雨水および室内側から壁内に侵入した湿気を
速やかに排出することを主な目的としている。
→通気性は横胴縁より縦胴縁、より金物が勝る
→開口部回りは通気胴縁を30mm以上あける。通気層の厚さは15mm以上確保。
⑤構法による劣化防止4→モルタル壁注意:雨水がモルタル内に浸透し、直射日光による熱とともに壁体内部に移動し、
品質の低いアスファルトフェルトを透過して下地板を濡らす被害。防水塗装のメンテ必要。
⑥構法による劣化防止5→基礎断熱、ベタ基礎の留意点:シロアリ:土と接している断熱材をなくす。
⑦材料計画:適材適所の使い分け→構造的に重要な部材、劣化し易い部材、点検メンテが困難な部材、の3条件の内、
2条件以上が該当する部位には高耐久な木材を利用する。候補として、高耐久樹種の心材、
加圧注入剤、熱処理材、科学修飾材など。又、塩分環境では木材より鋼材が朽ちる。
⑦材料計画:加圧注入処理木材の性能→K3処理:表面から10mmの80%以上、加圧注入剤(ACQ)18年問題なし
■集成材の剥離:総じて日射、雨水、湿気などの影響を受ける部位は、剥離の危険度が高くなる。
①レゾルシノール系樹脂接着剤は築年数25年で集成材の大半が健全であったが、日射、雨水が作用する部分は剥離が生じた。
②ユリア樹脂接着剤による集成材では、使用環境により、剥離が著しく進行していた。
③米国のカゼイン接着剤を用いた集成材は、築74年経過しても健全であった。
④CLT等のMass Timberに対する耐久性の懸念:一旦吸収すると乾燥しにくいため腐朽に適した水分状態が続きやすく、劣化
した場合はサイズ的に修理や交換が容易でない。ラミナの水はなかなか抜けないので劣化する。
■接合部および金物の耐久性:築30年経過した枠組壁構法住宅のCN90釘の腐食実態有り。
①丸釘による面材耐力壁の許容耐力が最大になるのは、釘の重量残存率が0.98~0.95の状態。
②ACQ(防腐防蟻剤)は金属の腐食性が強い。
■基礎コンクリートの劣化
①土中の硫酸分によって生じるコンクリートの腐食現象:イオウを含んだ火山灰土壌+土中水
床下土壌面に硫酸ナトリウムの針状結晶が生まれる。→水セメント比を50%程度に抑える。
■木造建築物の維持保全:点検・保守のし易い設計とした上で、予防的な維持保全の実施体制を整える。
①予防保全を基本とする。(不具合が発生する前に修繕等をおこなう)事後保全(不具合発生後に修繕をおこなう)
■既存住宅状況調査方法基準による床下蟻害調査方法の限界
①点検口から見えない箇所にのみ被害があるケースが124件もあった。
■点検方法と点検制度との関係
①近年の木造住宅(大壁造、高気密高断熱)は解体してみないと構造材の劣化確認は困難。