本日は、耐震補強において多くの専門家や施主様が見落としがちな「耐震性能の質」について、実際の計算データを公開しながら解説します。「地震に強い家にするには、とにかく壁を硬くすればよい(筋かいを増やせばよい)」そうお考えではないでしょうか? これは間違いではありませんが、正解のすべてでもありません。今回、同一の間取りの建物に対し、補強方法を変えた4つのパターンでシミュレーション(限界耐力計算)を行いました。その結果、単に「硬くする」だけではカバーしきれない、構造上のリスクが浮き彫りになりました。
4つの補強パターン
今回は以下の4仕様にて、地震時の挙動を比較検証しました。
- 【筋かいダブル】:昔ながらの硬い補強。45×90の筋かいダブル
- 【構造用合板】:今の主流。12mmの板で面として支える。
- 【耐震リング】:粘りで揺れを吸収する制振装置。
- 【合板+リング】:硬さと粘りのハイブリッド。

これらが大地震発生時、どのような挙動を示すのかを解析します。
検証1:筋かい(45×90ダブル)
まずは、従来から多用される「筋かいダブル」による補強です。
【解析結果】
■判定: ○ 一応倒壊しない
■評点: 1.49(1階X方向)
【技術考察】 判定は「倒壊しない」となり、評点も高い数値が出ました。しかし、ここで安心するのは早計です。以下のグラフ(復元力特性)をご覧ください。
【グラフ解説】 しなやかなカーブを描きながら変形が進んでいきますが、グラフの山が頂点を迎えた後、急激に下降しているのが見て取れます。これは、ある一定の力を超えた瞬間に部材が折れ、急激に耐力を失う「脆性破壊(ぜいせいはかい)」を示唆しています。 筋かいは確かに「硬い」ですが、限界を超えると一瞬でその効力を失うリスクを孕んでいます。これが、剛性(硬さ)のみに頼る補強の懸念点です。
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しなやかな揺れだが、筋交いの突き上げによる仕口の外れや、筋交いの座屈による、耐力が急低下するリスクがある。
グラフ解説: しなやかなカーブを描きながら変形が進んでいきますが、グラフの山が頂点を迎えた後、急激に下降しているのが見て取れます。
これは、ある一定の力を超えた瞬間に部材が折れ、急激に耐力を失う「脆性破壊(ぜいせいはかい)」を示唆しています。 筋かいは確かに「硬い」ですが、限界を超えると一瞬でその効力を失うリスクを孕んでいます。これが、剛性(硬さ)のみに頼る補強の懸念点です。
検証2:構造用合板(12mm)
次に、現在主流となっている面材による補強です。
【解析結果】
■判定: △ 倒壊する可能性がある
■評点: 0.98(1階X方向)
【技術考察】 面材は筋かいに比べて粘り強い特性を持ちますが、今回の補強量だけでは大地震のエネルギーを受け止めきれず、若干耐力不足という結果になりました。
釘の剪断引張の変形能力がグラフに表れています。合板の力というより、釘の力です。釘のピッチを細かくすれば耐力もあがります。筋違のように急激に耐力を失うことはありませんが、釘が合板から抜けたり、釘から合板が外れたりすると、耐力低下が進みます。
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初期の地震の揺れに対し粘り強いが、釘が抜け始めると耐力の低下が始まる。
検証3:耐震リング(R10)のみ
続いて、粘りのスペシャリスト「耐震リング」単体での挑戦です。

【解析結果】
■判定: △ 倒壊する可能性がある
■評点: 0.94(1階X方向)
【技術考察】 こちらもNG判定となりました。グラフをご覧ください。右肩上がりに耐力は伸びていますが、初期の傾き(剛性)が緩やかです。剛性が低い分、地震力の吸収はおだやかですが、耐力は上昇を続ける。初期剛性が低いということは、地震の初期段階で建物が大きく変形してしまうことを意味します。粘りを発揮する前に変形量が限界を超えてしまうため、「柔らかすぎる」こともまた、倒壊リスクにつながることが分かります。開口部が壊れ、サッシが外れる懸念があります。
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単体で地震に耐えるだけの剛性はないが、他の耐力要素との組み合わせにより、後半の粘りを受け持つ。(ゆっくり揺れている。周期が長くなる)
検証4:【推奨】構造用合板 + 耐震リング
最後に、合板(剛性)とリング(粘り)を組み合わせたハイブリッド仕様です。
【解析結果】
■判定: ◎ 倒壊しない!
■評点: 1.53(1階X方向)
【技術考察】 これが工学的に導き出された、理想的な挙動です。
【グラフ解説】高い耐力を維持しながら、グラフが右側へ長く伸びています。これが構造における「粘り(靭性)」です。1.地震の「ドン!」という最初の衝撃は、合板の硬さ(剛性)でガッチリ受け止めます。2.さらに揺れが大きくなったら、リングの粘り(減衰)が効いてきて、建物を倒壊させません。
いわば、強固な鎧の内側に衝撃吸収材を備えているような状態です。これにより本震での倒壊を防ぐだけでなく、繰り返す余震に対しても性能低下を最小限に抑えることが可能です。
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「合板」の初期剛性の強さと、「耐震リング」の後半の粘り強さを持つ組み合わせは、互いの弱点を補っている。合板の限界がきても、耐震リングがねばり、本震での倒壊を防ぎ、余震での損傷も押えるという効果が期待できる。
結論:耐震は「数値」だけでなく「挙動」を視る → 安全性の「質」
今回の検証で私が最もお伝えしたいのは、「耐震評点(数値)合わせだけでは、真の安心は担保できない」という事実です。
最初の「筋かい」モデルも評点は1.49ありましたが、破壊性状にはリスクがありました。対して「ハイブリッド」は評点1.53と数値上は近似していますが、安全性の「質」は決定的に異なります。
地震時に建物が具体的にどう揺れ、どう粘るか」を理解することが重要です。
真の耐震性能=「剛性(硬さ)」×「減衰(粘り)」
今回の検証により、耐震特性の異なる、構造用合板 と 耐震リングを組み合わせが、本震での倒壊を防ぎ、余震での損傷も押えるのに効果的であるという結果が出ました。
