住宅医スクールとは、地域の住まいのドクターとなる「住宅医」を育成・認定するスクールです。既存住宅の調査診断・改修設計・施工・維持管理等の基礎から実践までを学ぶ、実務者向けのスクールです。一般社団法人住宅医協会が主催しています。


第1回①:木造建築病理学(Building Pathology)の必要性 三澤文子・Ms建築設計事務所、滝口泰弘・滝口建築スタジオ 2023.2/18
住宅を診て治す、住宅医の調査診断から改修の概要
■古い建物の保存利用が多い英国での歴史は古く、英国内25大学に「建築病理学講座」が開設されています。
日本でも「建築病理学」に基づいた既存建物診断技術・制度の整備の必要性がでてきています。
スクラップ&ビルドの時代から、健全な住環境を提供する「長寿命住宅」に目をむける時代にきています。
■「建築病理学」とは建築に関連した病気を研究する学問分野で、建築物に発生する各種劣化や不具合(ひび割れ、傾き、変形、沈下など)あるいは欠陥事象を研究対象とする分野です。
■住宅医による既存住宅の調査診断:3段階(既存住宅インスペクションガイドライン2013年国土交通省)
| 一次的調査(劣化調査) | 目的:既存住宅の現状把握 | 中古住宅売検査検査、定期点検 |
| 二次的調査(耐震診断) | 目的:不具合箇所を修繕 | 耐震診断等 |
| 性能向上調査(住宅医による診断) | 目的:性能向上リフォーム | 性能向上インスペクション |
■既存住宅の改修 5つの柱
1:既存住宅の調査・診断をおこなう
2:耐震性能の向上を目指す
①地盤種別
②平面立面の特徴
③軸組の特徴
④継手の位置
⑤耐力壁の種別・壁・配置位置
⑥床面の先行破壊防止:床面の水平剛性と耐力壁の配置
⑦接合部の抜け防止:外周梁のフランジ効果、耐力壁構面上の梁、耐力壁端部柱の引抜
⑧アンカーボルトの有無・配置
⑨部材断面と腐朽・劣化の程度
3:断熱性能+省エネの向上を目指す
①「断熱等級5または6、気密性能はC値2.0を切る」を目標にする。
4:プランニングでは バリアフリーの意識を
①既存住宅プランの問題点と住まい手の不満を分析して改善する。
②既存住宅プランの骨格を尊重して改善すること
③プランの中を仮想で歩き、気持ちが良いかどうか確かめる。
④室内外の安全のために段差をなくす、もしくは段差は150mmまでに。
5:劣化対策とメンテナンス容易性に留意する
①木部を水から守る(遠ざける)ことが必至」そして点検しやすく!
第1回②:木造建築物の耐久性能と維持管理 中島正夫・関東学院大学建築・環境学部 名誉教授 2023.2/18
劣化事象から学ぶ耐久性向上設計
1:木部の劣化→風化、カビ、変色、虫害、腐朽、蟻害
2:接着層の劣化→合板、集成材、CLTなど木質材料の剥離、強度劣化
3:鋼材(鉄筋、接合金物、接合具)の劣化→錆害、硫酸塩劣化、アルカリ骨材反応など
近年の腐朽被害実態:浴室のひび割れ原因、バルコニー屋根ドレインの水漏れ、遠赤外線処理木材20年持たない
近年の蟻害被害実態:基礎の外断熱材からヤマトシロアリ(壊さなければわからないことが多い)
■木造建築物の耐久計画・設計の基本
:木材・木質材料を構法的に水から遠ざけつつ、材料としての欠点を補う保存措置および維持管理を併用していく。
①劣化外力の把握→ヤマトシロアリは全国に分布
②構法による劣化防止1→雨水・結露水・シロアリへの配慮、軒の出の効果(雨の跳ね返り:基礎高)
③構法による劣化防止2→屋根からの漏水による下地、小屋組の劣化とルーフィングの耐久性
④構法による劣化防止3→外壁通気工法:通気層は事故的に侵入した雨水および室内側から壁内に侵入した湿気を
速やかに排出することを主な目的としている。
→通気性は横胴縁より縦胴縁、より金物が勝る
→開口部回りは通気胴縁を30mm以上あける。通気層の厚さは15mm以上確保。
⑤構法による劣化防止4→モルタル壁注意:雨水がモルタル内に浸透し、直射日光による熱とともに壁体内部に移動し、
品質の低いアスファルトフェルトを透過して下地板を濡らす被害。防水塗装のメンテ必要。
⑥構法による劣化防止5→基礎断熱、ベタ基礎の留意点:シロアリ:土と接している断熱材をなくす。
⑦材料計画:適材適所の使い分け→構造的に重要な部材、劣化し易い部材、点検メンテが困難な部材、の3条件の内、
2条件以上が該当する部位には高耐久な木材を利用する。候補として、高耐久樹種の心材、
加圧注入剤、熱処理材、科学修飾材など。又、塩分環境では木材より鋼材が朽ちる。
⑦材料計画:加圧注入処理木材の性能→K3処理:表面から10mmの80%以上、加圧注入剤(ACQ)18年問題なし
■集成材の剥離:総じて日射、雨水、湿気などの影響を受ける部位は、剥離の危険度が高くなる。
①レゾルシノール系樹脂接着剤は築年数25年で集成材の大半が健全であったが、日射、雨水が作用する部分は剥離が生じた。
②ユリア樹脂接着剤による集成材では、使用環境により、剥離が著しく進行していた。
③米国のカゼイン接着剤を用いた集成材は、築74年経過しても健全であった。
④CLT等のMass Timberに対する耐久性の懸念:一旦吸収すると乾燥しにくいため腐朽に適した水分状態が続きやすく、劣化
した場合はサイズ的に修理や交換が容易でない。ラミナの水はなかなか抜けないので劣化する。
■接合部および金物の耐久性:築30年経過した枠組壁構法住宅のCN90釘の腐食実態有り。
①丸釘による面材耐力壁の許容耐力が最大になるのは、釘の重量残存率が0.98~0.95の状態。
②ACQ(防腐防蟻剤)は金属の腐食性が強い。
■基礎コンクリートの劣化
①土中の硫酸分によって生じるコンクリートの腐食現象:イオウを含んだ火山灰土壌+土中水
床下土壌面に硫酸ナトリウムの針状結晶が生まれる。→水セメント比を50%程度に抑える。
■木造建築物の維持保全:点検・保守のし易い設計とした上で、予防的な維持保全の実施体制を整える。
①予防保全を基本とする。(不具合が発生する前に修繕等をおこなう)事後保全(不具合発生後に修繕をおこなう)
■既存住宅状況調査方法基準による床下蟻害調査方法の限界
①点検口から見えない箇所にのみ被害があるケースが124件もあった。
■点検方法と点検制度との関係
①近年の木造住宅(大壁造、高気密高断熱)は解体してみないと構造材の劣化確認は困難。
第2回①:木材の劣化と対策~木材腐朽菌・害虫の生態と対策 築瀬佳之(京都大学大学院農学研究科) 2023.3.18
■木材の劣化と対策
生物劣化だけで木造住宅が倒壊することはまずありえない。被害を受けた家屋は地震や台風によって倒壊するリスクが高まる。倒壊家屋を調査したところ、100%は腐朽菌、70%は白蟻の被害があった。
■木材の生物劣化:木材腐朽菌編
■木材の生物劣化:木材腐朽菌編
カビは木材を腐らせないが、腐朽菌は木材(細胞壁)を分解し腐らせる。(腐朽菌にはコブのようなクランプがある)
■腐朽菌の菌糸は白い。色がついていたらカビの可能性高い。
リグニンを取り除いて紙をつくる。
■腐朽菌3種のうち、問題なのが、褐色腐朽菌と白色腐朽菌。
■褐色腐朽菌:セルロースとヘミセルロースを分解し、リグニンの色(褐色)に木材を変色させる。針葉樹をよく分解する。
木材の繊維方向をぶち切るので5%腐ると強度が半減する。
■白色腐朽菌:セルロース、ヘミセルロースだけでなくリグニンも分解し、ヘミセルロースの色(白色)に変色させる。広葉樹をよく分解する。
■木材腐朽菌を進行させる要因は、栄養・温度・水分・酸素。どれか一つでも欠けると木材腐朽は発生しない。木材の乾燥(約25%以下で、極力低い方が良い。15%前後であれば問題ない)。束石や金属接触による結露も原因となる。
■水分の侵入・滞留を防止。結露・水漏れ・雨漏/排水換気
■木材表面を非栄養化する。材表面に傷をつけ薬剤を浸透しやすくするインサイジング加工する。(銅成分をよく使用する)
■まとめ:
■木材腐朽は、菌類(キノコ)による木部の分解である。
■木部表面への胞子の付着と水分供給から菌糸の発芽と成長がはじまる。
■土壌からの水分、屋根や壁の雨仕舞、漏水、結露水によって発生する。
■栄養、温度、水分、酸素であり、どれか一つでも欠けると木材腐朽は発生しない。
■腐朽対策としては水分管理が最も現実的。
■木材の生物劣化:乾材害虫編
■木材の生物劣化:乾材害虫編
乾燥した木材を加害。
針葉樹材を食害しない。(栄養分が少ない、抽出成分が阻害)
辺材はでんぷんが多く食害される。ヒラタキクイムシ。
■シバンムシ科
お墓、古材、文化材害虫:生態がわかっていない。
■まとめ:
■乾燥した木材を加害し、主に床下や小屋裏、外装材への被害が多発する。
■チビタケナガシンクイを除いて主な乾材害虫は幼虫が木材 中で食害活動をして、成虫になって木材中から脱出する。
■辺材部への加害が集中し、心材部の被害少ない。
■集団で活動しないため、シロアリほど食害材の強度低下はみられない。
第2回②:防蟻対策の実務~蟻害の事例から学ぶ、診断・対策のポイント 水谷隆明(阪神ターマイトラボ) 2023.3.18
防蟻対策の実務~蟻害の事例から学ぶ、診断・対策のポイント
■シロアリは、乾燥しているところにも、陽の当たるところにもいる。湿気たところにいるのではなく、暖かい南側も好き。水分とはあまり関係がない。
■巣を破壊しないとだめ。イエシロアリは被害が甚大。頭が黒いのは兵隊蟻。
■原則、土の中に住んでいる。死んだ木の根っこが好き。
■1.1㎜の隙間があればシロアリが侵入する。断熱材の中を掘って侵入することもある。わずかな隙間を上がる。
■コンクリートの気泡からも入る。
■基礎の化粧モルタルからも入る。
■べた基礎であっても隙間から入る。
■床下を防蟻処理していないOMソーラーも入る。
■土台と基礎の隙間。玄関枠も多い。
■断熱している配管からも上がる。
■防蟻タイプの断熱材は食べられないが隙間を上がる。
■空中蟻道は、羽蟻の出口。後ろの羽が大きく飛ぶのが苦手、グライダーのように飛ぶ。
■雨漏れがあれば上まで上がる。鉄骨も上がる。マンションにも出る。
■基礎外断熱から上がる。壁の断熱材のなかを通り3階軒裏まで上がる。断熱材の中は水を運べる。
■床下換気扇や床下調湿材や石も意味がない。防蟻シートも小さな穴が開けば入る。
■新しい檜は精油成分がきらいなので効果あるが古くなれば意味がない。
■柿渋も中を食べるのであまり意味がない。研究データは良い結果が得られるような試験をするので信用できない。
■ホウ酸はホウ酸を塗ったところは食べられないが、
■炭もあまり効果がない。
■イエシロアリは食べるスピードが速く、2万~3万匹の大群になる。巣は1mから1.8mくらいあることも。
■床暖房している場合、2年くらいの点検を怠らない。出れば少量の薬剤で処理。
■配管は下より横に抜くとよい
■シロアリ処理:1500円/㎡くらい
■防蟻と駆除の方法は違う。
■軽いものは持ち上げてしまう。
■白蟻対策は薬剤処理しかない。
■キシラデコールもある程度防虫効果がある。
■土間コンクリート下の薬剤処理も効果がある。
■食害がある場合は被害部分に2㎜~6㎜のドリル穴をあけて薬剤を注入する。
■ホウ酸は有効な手段。雨で流れてしまうので注意。でなければ半永久的に持つ。食べられない。
■薬剤散布高さは、1mというが、水を運べる高さまで。
■脱皮できなくなる餌を入れる。
■ネオニコチノイドは蜂が死んでしまうというが、床下には問題ない。子供の神経に障害があるのではとの疑念がでている。
マイクロカプセルのものを使うとよい。ピレスロイド系は除虫菊系、ネオニコチノイドはたばこ系
■1年~3年に一度の点検で、早期発見と対策が可能になります。
※白蟻の知識でも紹介しています。
特別講義:温熱・省エネ改修へのアプローチ 野池政宏/住まいと環境社 2023 第1回 2023.4.1
新築も改修も温熱・省エネの取り組みは同じ。
少しでも良くなればではなく、定量的な目標を定めて、絶対的な改善を目指すべき。
まず温熱環境の快適性・健康性と、社会の要請・光熱費負担がポイントとなる。
快適性の6要素として、環境要素:室温、表面温度、湿度、風速、人的要素:着衣量、代謝量の組み合わせによる。そのうち環境要素の室温、表面温度、湿度、風速をコントロールする。
室温と表面温度で全体の70%くらいの影響がある。上下温度差にも注目すべき。
足下と頭部との上下温度差として3℃以内。断熱性能と気密性能がカギ。
表面温度は、室温との温度差として1℃以内が目標。決め手は断熱性能。
WHO:冬の室温を18℃以上にすべき。という強い定量的勧告がある。
居室は滞在中は18℃以上。非居室は概ね16℃以上とする。決めては、断熱性能、暖房計画、プラン。
夏は適切に冷房するのが解決策。夏の室温目標は定める必要はない。
結論的に、快適温度=健康室温。維持室温は21℃、冬の室温閾値を18℃以上、表面温度差として1℃以内、足下と頭部との上下温度差として3℃以内も重要。
手法として…断熱、日射熱取得、暖房計画、気密、日射遮蔽。
暖冷房スケジュール。空調計画が必要。いきなり全館空調ではない。シュミレーションしてみる。
暖房スケジュールと室温推移グラフのツールにてシュミレーション。
橙色の部屋を暖房する。温度が範囲内におさまるか。
断熱性能は温度目標達成の重要なポイント。
仕様と室内外の気温から表面温度を算定。G1とG2の中間程度の断熱性能が必要。
室温22度の場合の例。アルミサッシは低い。樹脂サッシは効果的。
赤線が良い。断熱性能と気密性能を一緒に実現する。
断熱性能:G1とG2の中間程度
気密性能:5地域以南で1.0cm2/m2
連続暖房は21℃前後になるようにすれば、18℃以上は達成できる。暖房を切ると室温が下がる。18℃を下回らないようにする。
夜中の室温低下があるため、起床時に18℃を上回るようにするにはG3レベル以上が必要。暖房計画とセットで考えるのが一般解。就寝中は18℃で暖房する。
暖房居室(熱源)から離れると温度が下がる。暖房居室への接し方で必要断熱レベルが変わる。プランも大事。
冬の目標温度を達成するには、G2レベルが必要。
部位の断熱性能は熱貫流率を見る。仕様と熱貫流率の併記が適切。最良の把握は「自己適合宣言ルートの熱貫流率」を見る。
組み合わせより自己適合宣言ルートの熱貫流率が正確。
網掛けは日射熱が大きい。冬は差が大きい。窓5㎡に対し、冬は平均値をとり1083Wで、夏は最大値をとり1875W。
エアコン安定状態で2000Wに対し、夏の窓5㎡で1875Wは負荷として大きいのがわかる。
日射熱取得率が0.47とは、熱の47%が建物に入ると言うこと。外付け日除けの効果が大きい。
屋根や壁からも日射熱が入る。無断熱だと躯体から入る日射熱も大きい。やはり窓から入る日射熱が大きい。
冬は南面に取得型ガラスと日除け、夏はすべての窓に着目し遮蔽型ガラスと日除け。
2050年のカーボンニュートラルの実現を目指し、エネルギー消費量の削減の検討が必要。
カーボンニュートラルの責任を果たすための取り組み。
断熱改修エリアでは、UA値が基本的な指標となる。部分改修の場合は、温度差係数を用いる。(熱貫流率に掛ける係数)
無断熱の場合(窓はアルミ)みなしUA値がでる。
改修後のみなしUA値がでる。外皮のみ、外皮と間仕切りを断熱改修しただけでは、まだまだ低い値。
18℃については就寝時の暖房で解決できても、上下温度差は目標に至らない。
間仕切り壁や階間側の表面温度は一定に高く、さほど低くはならない。
外壁、間仕切り、階間を断熱改修すると、UA値がG2レベルに近くなり、表面温度もほぼ達成できる。
非居室については、非居室も含めた断熱改修をするか、非居室を暖房する。どの範囲を暖房するか、エネルギー消費量の増加を含めて検討する。
1階の和室を寝室にする等、間取りの変更を行い、集めて断熱改修する方法。温熱的減築。
ガラスと日よけ部材の効果は絶大。計算ツール有り。冬に日射が当たる南窓は取得型ガラスと日除け、夏に日射があたる窓すべてに遮蔽型ガラスと日除け。ハニカムスクリーン、障子、厚手のカーテン(上下いずれか密閉)も窓の断熱性能を向上させる。
窓の結露は、カビの発生につながらなければ問題はない。結露水が溜まることが常態化しないよう拭き取る。
気密性能を上げることが上下温度差の低減につながる。5地域以南は2.0cm2/m2。特に、床周りの気密を上げる。気流止めは不可欠。玄関を熱的に独立させる。玄関前の風除室も温熱的に有効。
換気による換気量の計算式。換気回数の計算式。熱損失量が求められる。
漏気による熱損失量。
断熱材周りや内部に気流が発生すると断熱性能が低下する。改修こそ気密測定が必須。
目標温度達成を最小のエネルギーで実現することを目指す。就寝時の暖房や起床少し前の暖房など、適切な暖房計画が必要。
間欠暖房スケジュール。
居室18℃、非居室16℃、全館空調18℃以上。
暖房エネルギー消費量の比較。全館空調はエアコンの数が少ないので意外と低い。
非居室(洗面)を暖房する選択肢もある。増えた分、太陽光をのせて相殺することも良い。
コストはかかるが、第1種熱交換も冬湯の室温上昇と暖房エネルギー消費量減少に有効。
夏は、室温目標は不要、エネルギー消費量のみを考える。(間欠運転)
温度目標達成とエネルギー消費超の最小化と太陽光発電5KWを目指す。
エネルギー消費量計算。一人30㎡未満として計算。
2人(60㎡)の場合、局所換気設備の一次エネルギー消費量は725MJ
エリア断熱改修の場合の、全体エネルギー消費量(2人世帯想定)
取組課題:全館空調、床下エアコンの温度分布。
取組課題:どこにエアコンをつけたら良いかの検討。
第3回①②:温熱環境の改善と対策 辻 充孝 岐阜県立木材文化アカデミー 2023.4.15
〇温熱環境の改善と対策:室温管理の重要性
温熱性向上の目的は、健康・快適と省エネ。ヒートショックによる年間の死亡者数は1万9千人、交通事故2千600人の実に7倍上。家の中でものすごく寒い状態をなくす(18℃以上)こと、又、効率の良い電化製品も増えており、省エネ基準も最低限は満たすことを目標にしていくことが望まれています。
死因割合として、癌につぐ循環器疾患(脳血管、虚血性心疾患)は、その因子といわれる高血圧等も生活習慣の改善も大切ですが、室温のコントロールの重要性も明らかになりました。断熱改修の効果が大きいと言えます。又、高齢者などのつまずきや転倒、夜間頻尿なども軽減される統計もでています。部屋間の温度差も5℃以内に抑え、ヒートショックリスクを軽減するのが良いと考えます。
建物の熱はどこから逃げていくか?まず、窓等の開口部、窓は熱貫流率の小さいLowE複層樹脂サッシに取り替えるたり、内サッシを取り付けると効果大。そして、屋根にはセルロースファイバーやグラスウール等の断熱材を入れる(厚100~300程度)、壁にもセルロースファイバーやグラスウール等の断熱材を入れる(厚100程度)、そして床にもセルロースファイバーやスタイロフォーム等の断熱材を入れる(厚100程度)等、熱が逃げないようにするのがポイントです。
〇外皮平均熱貫流率Ua値:換気の熱損失を除いた熱損失量を、床面積ではなく床、壁、天井、開口部の外皮面積で割った値
例えば、壁の熱貫流率の計算では、壁を構成する材料(使用する石膏ボードや断熱材、木材)の熱伝導率λを調べ、熱抵抗R(材料の厚み/熱伝導率λ)をそれぞれ算出。その材料ごとに断熱部と熱橋部とに分けて合計し、それぞれその逆数(1/R)を熱貫流率Un値とします。そして、断熱部と熱橋部との負担割合(壁:断熱部83%、熱橋部17%)にて按分し合計して熱貫流率U値を求めます。同様に、屋根・天井、床、基礎、土間、開口部(メーカーの自己適合宣言書の値を使用するのが正確)も行い、各部位の熱貫流率に各部位の面積と温度差係数(基本は1.0、床下は0.9)を掛け、外皮総熱損失量qを出し、それを外皮面積合計で割って外皮平均熱貫流率Ua値を算出します。(山口県や東京都の6地域:平成28年省エネ基準は0.87W/m2K以下が求められます(等級4)、Heat20G1レベルだと0.56W/m2K以下)
※熱貫流率Uとは、熱が材料を通して温度の高い空間から低い空間へ伝わる現象を熱貫流といい、そのときの「熱の伝わりやすさ」を表す数値を熱貫流率といいます。厚みを考慮した値となっています。外皮平均熱貫流率Ua値のaは、アベレージ平均のa。
〇熱損失係数Q値(H11年):内外温度差1℃とした場合に床面積1㎡あたりから逃げ出す熱量
実際、換気や漏気も考慮する必要があり、改修ではQ値で判断するのが良いといわれます。
換気による熱損失量:0.35×気積×換気回数。(0.35Wh/m3K:空気の容積比熱係数、換気回数:0.5回/h、気積は平均天井高を掛ける)
先ほどの外皮総熱損失量qに換気による熱損失量を加え、床面積合計で割り算し熱損失係数Q値を求めます。(山口県や東京都の6地域:平成28年省エネ基準は2.7W/m2K以下が求められます、Heat20G1レベルだと1.9W/m2K以下)
〇ゾーニング計画が大切:目的意識を持って部位性能向上に取り組む
耐震やバリアフリーを兼ねての全体改修が理想ですが、利用頻度の高い部屋周辺を改修するのも良いです。
断熱・気密により、建物の温度差を減らす。足下の温度を上げる。窓の肌寒さを抑える。暑さを抑える。室温低下を抑える。等、目的意識を持って部位性能向上に取り組むのが良いです。Ua値ガ高いだけでは暖かいとは限らない。改修はアンバランスな性能も出やすいことに注意すべき。
〇夏の日射遮熱と冬の日射取得を両立することを考える。:日射熱取得率η(イータ)と熱貫流率U、日射取得量
η=a×Ro×1W/㎡×U値(a:壁体の日射吸収率=0.8、Ro:外気側熱伝導抵抗=0.043、日射量:1W/㎡の場合、U:熱貫流率W/m2K)※省エネ法ではη=0.034×Uで計算。
不透明外皮である屋根・天井、外壁、ドアの熱貫流率Uに0.034を乗じて日射熱取得率ηをまず計算。それぞれ方位別に外皮面積を出して乗じる。さらに地域の方位別係数を乗じて合計し不透明外皮日射熱取得量を算出。(日射取得量=η×A×ν η日射熱取得率、A部位面積、ν方位計数)
続いて、窓のそれぞれの日射熱取得率ηiをカタログで調べ(樹脂枠、カーテン・ブラインド考慮した値)、窓面積を乗じ、方位係数を乗じる。更に庇遮蔽などの日射量補正(定数:冷房期fC=0.93、暖房期fH=0.51)を乗じて合計し、透明外皮の日射熱取得量を算出。
不透明外皮日射熱取得量と透明外皮の日射熱取得量を足し、日射熱取得量mcとする。そして、日射熱取得量mcを外皮面積合計で割り、外皮平均日射熱取得率ηAを求める。
冷房期の外皮平均日射熱取得率ηAC、暖房期の外皮平均日射熱取得率ηAH(山口県や東京都の6地域:平成28年省エネ基準は2.8以下、ηAH目安値は2.1:高性能ガラスだと下がりがち)
〇その他:気密性能を上げる、結露対策
隣地状況を考慮する。気密性能を上げることも重要。(窓まわり、壁の切れ目、コンセントボックス等)。気密性能は2cm/㎡が目標。
結露対策も重要。室内から躯体内に湿気を入れないこと。
第4回①:構造に関する基準、調査診断 山辺豊彦 2023.5.13 「力の流れを読む」ことが基本!
〇熊本地震の被害状況を分析すると、新耐震(1981年)~品確法(2000年)迄に建築された建物のうち、無被害が約20%、小被害が約60%、大破が約10%、倒壊が約9%であり、対策必要。
〇耐震設計の基本理念は、①まれに発生する震度5弱程度以下の中小地震に対しては、損傷しない(一次設計)
➁極めてまれに発生する震度6強程度の大地震に対しては、ある程度の損傷を許容するが、倒壊せず、人命と財産を守ること。正しい認識が必要。
:一般的な第2種地盤において、建築基準法の等級1程度では大破、品確法の等級2では中破、品確法の等級3では小破、が予測される耐震性能となっている。
:木造被害では、接合不良、壁量不足、偏心、擁壁移動による地盤沈下、による被害が目立つ。
〇建物の構造的特徴を把握すること。
:柱通しと梁通しの2種に大別される。
(柱通しは、水平剛性は高めやすいが、仕口の断面欠損に注意。梁通しは、水平剛性は低いが、仕口の断面欠損が少ないので鉛直荷重の支持能力は安定している。)
:壁倍率に応じた接合方法であるか。
:高倍率の壁を集中的配置する方法と、低倍率の壁を分散配置する方法。
:水平構面の剛性が高い場合は外周梁の接合部の引張耐力も高くする。
:必要な剛性は耐力壁との関係から決まり、高倍率の壁なら床倍率も高くする。
:基礎の設計は上部構造の重量分布と地盤性状とのバランスで決める。
〇耐力壁の特徴を捉える。
:ピン接合の軸組(柱、梁の直線変形)
:剛接合のラーメンフレーム(柱、梁のS字変形:水平抵抗強いが変形大)
:面材壁の軸組(対角線に走るシワがひび割れや釘抜きの原因)
:上部が開口となっている(壁で拘束されていない部分の柱が大きく曲げ変形)
:圧縮筋かい(筋かいの座屈を間柱などで防止する)
:引張筋かい(接合部の抜出を防ぐ)
〇水平構面をどうするかで建物の変形は劇的に変わる。火打ちを入れる。剛床にする。
〇耐力壁の配置計画の注意事項 力をスムーズに流す! ゾーニングして検討する。
:高倍率の耐力壁を外周のみに設ける(木造ドミノ)と、耐力壁の構面間が長くなり、屋根(床)面の変形が不均一になる。水平構面の剛性を高める。スラスト力も有り。
間仕切り壁を中間部に入れることで、低倍率の耐力壁でも変形や応力を抑えられる。(壁倍率4で床倍率2にすると屋根面の変形は均一になる。)
:屋根面の水平力を2階の耐力壁に伝達させるため、小屋筋かいなどを設けて連続させる。
:下屋の屋根面または、天井面を固める。下屋の接続部をしっかり留める。
:4分割法などでブロック分けして、必要耐力とバランスを確保する。存在壁量が不足する場合は、ほかの耐力壁線に不足分を伝達するため、水平構面の剛性を高くする。
〇軸組に関して。荷重は各階で処理をするのが原則。力をスムーズに流す!
〇耐震診断方法として、一般診断法、精密診断法1(保有耐力診断法)が一般的。
:老朽度は0.7まで下げなくても、補修をおり込んで0.9までして良いのでは?
〇現地調査では、しっかり建物を見て特徴を捉えることが大切。変形している時には何かある!
:各階の平面図に、1階と2階の柱位置を重ねてプロットすると、問題点を絞りやすい。連続性!
:外周はなるべく固める。
:2間、間隔位でゾーニングが良い。
:1階の柱に合わせて2階を上げる。
:3構面位にしないと、床を補強する必要がでる。
:2階柱の下に1階柱がない場合、床のたわみが推察されるため、床梁の組み方を調査する。仕口が抜けたり、めり込んでいる可能性が大きい。
:梁の継手でよく見かける、蟻継・鎌継・台持継手は引張耐力が小さい。金物補強が無い場合が多く、水平力により破壊が生じやすい。
:壁基準耐力5.20kN/m 終局耐力から求めた短期許容耐力を採用。壁倍率を1.96倍して換算される短期許容せん断耐力とは異なり、筋かいは低めに評価されている。
:低減係数:建物の劣化状況により、耐震要素の有効性を割り引いて評価するための係数。
:低減の種類:①柱頭・柱脚部の種類によるもの ➁基礎仕様によるもの ➂耐力要素の配置によるもの ④部材の劣化によるもの
:必要耐力:極めてまれに起こる大地震に抵抗するために必要な耐力のこと。建物に作用する地震力。
〇地盤調査
:標準貫入試験からわかる事項:土質の構成、硬さの分布、支持層の深さ、液状化の可能性
:N値から推定できる事項:砂地盤(内部摩擦角、許容支持力・支持力係数、液状化強度)、粘土地盤(一軸圧縮強さ、極限・許容支持力)
:スウェーデン式サウンディング試験 SWS(スクリューウエイト貫入試験に改称)からわかる事項:大まかな土質と地層構成、支持力(粘性土か砂質土か)
、地下水位、埋設物(ガラなど)の有無
:表面波探査法からわかる事項:支持力、埋設物の有無。※地層構成が判断できない。推定地耐力のばらつき大。沈下量の推定できない。
〇地盤調査試験データ 基礎下から2mの範囲に、半回転数がゼロの自沈層がある場合は要注意。
:長期許容支持力換算表。自沈層の圧密沈下量推定表。
:基礎下2mまでの範囲に1.00kNでゆっくり自沈層があり、基礎下2~5mの範囲に0.5kNの自沈層が無い場合、支持力は30kN/㎡程度と考えられる。
第4回②:構造的不具合の原因と対策Ⅰ 山辺豊彦 2023.5.13 ※古い建物は未来の創造性に繋がる!
〇耐震性を高めるためには、建物形状・軸組・鉛直構面・水平構面・基礎・地盤との関連をよく考えて「バランスよく耐力壁を配置する」ことが最も重要。試行錯誤。
〇第3種地盤は、必要壁量を1.5倍にして設計。無筋コンクリートの場合は、鉄筋をホールインアンカーで既存基礎に取付け、コンクリートを増打ちする。
〇耐力壁集中配置タイプ:壁倍率を高くし壁を減らした場合:水平構面を剛にする。引抜が生じる。接合耐力もアップする。基礎はRCとする。
〇耐力壁分散配置タイプ:壁倍率を低くした場合:水平構面は柔で良い。引抜力小さいので接合も軽微。柱と壁は多くなる。
〇木は圧縮には比較的強いが、引張は接合で決まる。
〇柱が多い通りの主構面と補助構面を意識し、基礎梁の配置計画と対応させる。
〇枕梁による補強:ボルトで繋ぐ程度では重ね材は一体にならない。たわみや強度計算する時は、既存梁と枕梁をそれぞれ単材として算出した断面性能を加算する。
添え柱での補強、添え材補強の面材打ち、フレーム補強(一般に柱は150角以上:耐力壁も必要となることが多い)などもある。
〇改修事例より
:最も歴史が古い座敷廻りは既存材をできる限り残す。
:建物の軽量化(例:屋根を銅板葺きとする)、RC基礎を新設。外周部土間コン打設し排水処理を徹底。
:耐力壁、水平構面ともに面材を用いる。
:主要な接合はDボルトを使用する。
:柱頭柱脚の接合方法はN値計算により決定する。
:柱脚部は腐朽しているため切断し土台を設ける。
:2階外壁線の直下には柱を設置する。(柱がある軸組上に2階を載せる)
:2階出隅柱の下は、1階柱を設けて、鉛直支持力を確保する。
:耐力壁は負担荷重に応じた配置とする。2階が載る範囲の周辺に多く配置する。
:2階と1階の耐力壁線がずれる箇所は、水平構面および梁の接合補強を行う。
スキルアップ講習会:第1回 防露設計・結露計算をマスターしよう! 辻 充孝 岐阜県立木材文化アカデミー 2023.5.27
○断熱化して内外温度差が大きくなれば結露リスクがでてくる。
○結露のメカニズム:結露は温度と湿度の関係で発生する。
:水の性質 生活温度域で気体・液体・気体に変化する。
:空気中の水蒸気 空気が持てる水の量は温度が高いと多くなる。
20℃の空気は、1㎥あたり絶対湿度17.3gの水蒸気を持つことが出来る。相対湿度100%(絶対湿度17.3g)※飽和容積絶対温度表より。
9.3℃の空気は、1㎥あたり絶対湿度8.65gの水蒸気を持つことが出来る。相対湿度100%(絶対湿度8.65g)※飽和容積絶対温度表より。
5℃の空気は、1㎥あたり絶対湿度6.8gの水蒸気を持つことが出来る。相対湿度100%(絶対湿度6.8g)※飽和容積絶対温度表より。
そこで、20℃、相対湿度50%(絶対湿度17.3g/2=8.65g)の状態で、気温が9.3℃に下がると、相対湿度100%(絶対湿度8.6g)となる。結露が始まる露点温度。
さらに、気温が5℃に下がると、相対湿度100%(絶対湿度6.8g)となり、8.65g-6.8g=1.84gの結露となる。
:湿り気の移動形態として、
1.移流(空気の流れによって移動)隙間からの水蒸気の侵入は、透湿の数十倍の水分を運ぶため、隙間を塞ぐのは必須。
2.透湿(水蒸気量の圧力差により、高い方から低い方へ流れる)材料を通過する。例:9g/㎥→5g/㎥
:結露の組み合わせ
1.冬型表面結露 汚れた排気ガス暖房はやめよう、温度低下で持てる水蒸気量が小さくなると結露する。
2.冬型内部結露 断熱材があっても結露する。室内から躯体内に湿気を入れないことが重要。外壁側の構造用合板やスタイロフォームで結露。室内側に防湿シート。
4人家族で約3~5リットル/日の水分発生。室内側は水蒸気の躯体への侵入を防止、室外側は水分を速やかに排出する。
3.夏型表面結露 車内ではよくある。不具合は起こりにくい。
4.夏型内部結露 日射による外壁温度上昇を防ぐ(すだれ)、透湿可変シート有効、初期含水の高い木材はNG。
○冬型表面結露の計算
STEP1:室内の露点温度を求める。
1.飽和容積絶対湿度表より、15℃、100%の水蒸気量は12.816g/㎥
2.相対湿度60%の実在水蒸気量は12.816×0.6=7.690g/㎥
3.飽和容積絶対湿度表より、露点温度を読み取ると6.8℃
STEP2:室内表面温度を求める。
1.外気条件 日最低気温-2.7℃(6地域)EA気象データ
2.外壁構成 (例:省エネ基準程度)石膏ボード12.5mm、グラスウール10kg 100mm、合板12mm、通気層有り
熱伝導率λ(W/mK)を調べる。※数値の小さい方が断熱性高い。
熱抵抗値R(㎡K/W)を計算する。熱抵抗R=材の厚み(m)/材料の熱伝導率λ(W/mK) ※数値の大きい方が断熱性高い。※下の表
3.室内表面温度を計算する。
壁全体の熱抵抗2.352(㎡K/W)、高温側から求めたい室内表面までの熱抵抗0.110(㎡K/W)、内外温度差17.7℃(15℃ー-1.2℃)
求めたい温度差Xは、0.110/2.352×17.7=0.828℃ よって、室内表面温度=15℃ー0.828℃=14.172℃
| 部材名 | 名称 | 熱伝導率λ(W/mK) | 厚さ(m) | 熱抵抗R(㎡K/W) |
| 室内表面 | 表面熱伝達抵抗(室内側) | ー | ー | 0.110 |
| 素材1 | 石膏ボード12.5mm | 0.221 | 0.0125 | 0.0125/0.221=0.057 |
| 素材2 | グラスウール10kg | 0.050 | 0.1000 | 2.000 ※全体の85%がGWの熱抵抗 |
| 素材3 | 合板12mm | 0.160 | 0.0120 | 0.075 |
| 室外表面 | 表面熱伝達抵抗(外気側通気層) | ー | ー | 0.110 |
| 断熱部の熱抵抗値 | 2.352 |
STEP3:冬型表面結露判定
室内露点温度6.8℃、外壁断熱部の表面温度14.172℃ よって、GW100mmで表面結露のリスクは少ない。
※100mmまでは、すごく性能がアップする。
※断熱を高めるほど表面温度が上がり、結露リスクは下がる。
※表面結露は難しくない。断熱を少し入れ、樹脂サッシを使う。
○冬型内部結露の計算方法:気密(移流なし)されている前提で、透湿をいかに防ぐかを計算
4人家族で約3~5リットル/日の水分発生。室内側は水蒸気の躯体への侵入を防止、室外側は水分を速やかに排出する。
0.仕様規定→繊維系断熱材(グラスウール、セルロース、ロックウール)と硬質ウレタンA種3(発泡系)の室内側に防湿フィルム(ポリエチレンフィルム)丁寧に施工。
1.透湿比抵抗による計算(簡易)→外壁1:2,屋根1:3で透湿抵抗比を計算(6地域)
2.定常計算→結露計算エクセルソフト
3.非定常計算→時間変化と共に室内外の温湿度や蓄熱量が変化する状態で判断する。計算期間は7/1から3年間の計算を行って求める。
1.透湿比抵抗による計算(断熱層が単一材料の場合のみ有効)※室内側の抵抗を高くする。
素材データシートをメーカーから取り寄せ、透湿比抵抗を得る。
透湿抵抗を計算。透湿抵抗=透湿比抵抗×厚み(m)
※石膏ボード12.5mmの透湿抵抗=透湿比抵抗52.5×厚み0.0125=0.65
※石膏ボードは湿気をよく通す。室内側にこれだけでは、ほぼNG
| 外壁の透湿抵抗比 | 断熱層から外側 | 断熱層から内側(室内側) |
| 1・2・3地域 | 1: | 5 |
| 4地域 | 1: | 3 |
| 5・6・7地域 | 1: | 2以上でないと結露する。 ※室内側の抵抗を2倍にする。 |
| 屋根の透湿抵抗比 | 断熱層から外側 | 断熱層から内側(室内側) |
| 1・2・3地域 | 1: | 6 |
| 4地域 | 1: | 4 |
| 5・6・7地域 | 1: | 3 ※結露し易いので厳しい |
2.定常計算による防露設計 定常計算は、室内外の温湿度を一定に保ったと仮定した状態(定常状態)で判断する。
湿気は絶対湿度の高い方から低い方へ移動する。
絶対湿度の差は透湿抵抗に比例する。
STEP1:躯体内の温度を求める。(表面結露と同様)
室温15℃、外気温3.6℃(内外温度差11.4℃)
全体熱抵抗2.538㎡K/W、高温側から、セルロースファイバー(CF)外側までの熱抵抗2.372㎡K/W
温度差X=2.372/2.538×11.4=10.65℃ よって、セルロースファイバー室外側の表面温度は4.35℃(室温15℃ー温度差X10.65℃)
STEP2:躯体内の絶対湿度を求める。(温度と同じ考え方)
室内側 15℃、60%→室内の絶対湿度7.69g/㎥(飽和容積絶対湿度表より12.816g/㎥×60%)
外気側 3.6℃、70%→外気の絶対湿度4.33g/㎥(飽和容積絶対湿度表より6.188g/㎥×70%)
内外絶対湿度差 3.36g/㎥ (7.69-4.33)
| 部材名 | 名称 | 透湿比抵抗(m・h・mmHg/g) | 厚さ(m) | 透湿抵抗(㎡・h・mmHg/g) |
| 室内表面 | 表面熱伝達抵抗 | ー | ー | 0.060 |
| 素材1 | 水性塗料塗り | ー | ー | 2.700 ※計算に含める |
| 素材2 | 石膏ボード | 52.50 | ×0.0125= | 0.656 ※湿気を通す |
| 素材3 | 構造用合板 | 2340.91 | ×0.0120= | 28.091 ※影響が大きい、含有する接着剤が湿気を止める(結露リスク) |
| 素材4 | セルロースファイバー | 13.40 | ×0.0850= | 1.139 |
| 素材5 | 石膏ボード | 52.50 | ×0.0125= | 0.656 |
| 素材6 | 透湿防水シート | ー | ー | 0.400 ※計算に含める |
| 室外表面 | 表面熱伝達抵抗 | ー | ー | 1.800 |
| 断熱部の透湿抵抗値 | 35.502 |
室内の絶対湿度7.69g/㎥、外気の絶対湿度4.33g/㎥(内外絶対湿度差3.36g/㎥)
全体の透湿抵抗 35.502(㎡・h・mmHg/g)、セルロースファイバーまでの透湿抵抗 32.646(㎡・h・mmHg/g)
湿度差X=32.646/35.502×3.36g/㎥=3.10g/㎥ よって、セルロースファイバー室外側の絶対湿度は4.59g/㎥(7.69g/㎥ー温度差3.10g/㎥)
STEP3:躯体内の結露判定
セルロースファイバー室外側の表面温度は4.35℃の時の、飽和容積絶対湿度は6.48g/㎥(表より求める)
セルロースファイバー室外側の絶対湿度 4.59g/㎥<飽和容積絶対湿度 6.48g/㎥なので、結露の危険性は少ない。
※相対湿度は70.8%(4.59/6.48×100)。カビの発生は80%を超えると顕著。
※内部の温度変化も意識すること。内部結露を発生させないことに加え、湿度もある程度抑える。
○結露の発生に影響する温度や湿度は、外気や建物性能の影響を受けながら、最終的には住まい方で決定される。
相対湿度の上限目安は60%程度にする。
石油ストーブやファンヒーター等の、煙突の無い汚れた排気ガス暖房はやめよう。(過剰な湿気が出る)
○結露防止の原則
①箇条な湿気を出さない。→開放型採暖設備は使わない。
②換気の促進→湿気の発生源には積極的な局所換気
③空気の流通をよくする→空気の淀みを無くす。
④室温を快適に保つ→暖めすぎ・冷やしすぎに注意
※防露設計を行い、施工精度が高くできていること。
第5回①:構造的不具合の原因と対策Ⅱ 清水利至 2023.6.10
1【耐震診断・補強業務で求められるもの】
地震時に家が倒壊する心配をなくしたい。今の生活を維持したい
○耐震診断説明時によく聞かれる事
:この家は地震がきたらどうなりますか?補強工事をしたらどれくらいの強さになりますか?
→調査して、診断してみれば、数値化されて目安がわかる。どの位の強さにするかの計画も立てられる。
:補強工事はどれくらいかかるのですか?→概ね100万~200万程度が多い。
:補強工事の期間はどれくらいですか?→1ヶ月~2ヶ月
:住みながら工事をすることはできますか?→概ね可能です。
2【耐震診断・補強業務の流れ】
①依頼を受ける:行政の無料診断からの流れや工務店、リフォーム会社、設計事務所、不動産会社、(民間)から等。
②業務説明・事前調査:
1.耐震診断・補強計画・補強工事とは、どのような事をするかを説明
2.耐震診断と補強工事にかかる費用の説明(耐震診断は15万程度)
(仕事を進めることの了解)
3.既存建物の図面などの資料の借用
4.1/100平面図作成用調査、調査可能範囲の確認
5.調査時の荷物の移動などの説明
※無料調査は点数を出すところまで。
※補助金は施工費用の80%かつ100万以内が多い。(要確認)
③事前準備
:1/100の平面図の作成
調査項目毎に図面を分けて調査項目を予め記入しておく。
1.平面確認用、2.仕上げ記入用、3.開口部記入用、4.劣化箇所記入用、
5.柱・床傾き記入用、6.基礎調査用、7.既存筋交い記入用、8.略伏図記入用
:地盤等の調査
④現地調査
午前中(図面調査と観察)
1.平面図の確認:赤ペンで違うところを書き込む、柱壁位置、窓の位置や開き勝手、家具や雨戸や樋や設備の位置
2.開口部の分類:□窓型開口(垂れ壁+腰壁で開口高さ600mm~1200程度)、○掃き出し型開口(垂れ壁360mm以上)
3.仕上げ材の記録:内装下地と仕上げと範囲、外壁仕様と範囲、内外どちらから工事し易いか検討つける。
4.劣化状況の観察:水しみ、床たわみ、タイル割れ、内装壁ひび割れ、白蟻等→劣化原因を探る手がかりとなる。
5.外部からの基礎調査:鉄筋の有無、ひび割れ (0.3mm~0.5mm)、換気口位置、コンクリートブロック範囲、屋外機器位置
6.柱の傾き、床の傾斜の調査: (3/1000~6/1000)、傾斜の方向
午後(小屋裏、床下)2階天井→1階天井→最後に床下
7.小屋裏で耐力壁・軸組の調査:筋交い位置と寸法と向き、筋交い端部と柱頭柱脚の接合状況、基礎と梁の位置、
梁や筋交いが無いことを確認した場所、調査出来なかった場所は筋交い無しで計算。
8.床下の調査:1階筋交い位置、基礎の位置と分類、ひびわれ箇所とひびわれ状況、土台の劣化状況、白蟻の痕跡状況
地盤の観察、基礎の立ち上がりのある場所を記録 ※建物の重要な劣化が現れている可能性がある。
:耐震診断法で計算するために必要な情報
・地盤:地盤種別(1種、2種、3種)、敷地周囲の状況
・建物の形状:平面形状、柱・壁の位置、開口部の位置
・建物の高さ:各階の高さ、軒の高さ、最高の高さ
・建物の重さ:屋根の種類、外壁の種類
・鉛直構面:基礎の仕様、柱頭柱脚の接合仕様、部分的な劣化、筋交いの位置、寸法、端部の接合。
土壁・仕上げ材の位置、仕様。開口部形状の分類
・水平構面:屋根構面と床構面の仕様、火打ちの配置
:その他(住宅医)
・近隣建物、隣地の状況
・基礎のひび割れ (0.3mm~0.5mm)、壁のひび割れ、水しみ跡の位置
・床の傾斜の状態 (3/1000~6/1000)
・柱頭柱脚・筋交い端部以外の接合部の状況
・現状の間取りの問題点
:補強工事を視野に入れて
・基礎の位置、梁の位置
・分電盤、給湯器、戸袋、小庇、雨樋などの位置
・真壁と大壁、半柱や付け柱の状況:筋交いダブルの入らない所の見極めや工事のしにくい所を避けるため
※旧図面はあてにならない。(筋交いが2割くらいしか図面通りに入っていないこともある)
⑤調査結果まとめ・補強設計
1.調査結果の図面化:調査結果を図面に記録
2.写真の整理:劣化状況、施工状況がわかる写真をまとめる。
3.状況の診断:計算して評点を出す。
4.補強方針の検討:調査結果と評点から問題点の見当をつける。優先順位、工事方法を考慮して補強方針を検討する。
5.補強計画と補強後診断:補強した結果を計算し評点が目標値になるかを確認、計画内容の図面化。
⑥住まい手への報告・説明
1.現況の報告
:保存図面との相違、各部の施工状況、劣化損傷の報告、近隣地盤の状況、実際に筋交いのある位置
2.耐震診断方法のポイントの説明
:建物の重さ、基礎の種類、耐力壁の種類、接合部の仕様、壁のバランス、
劣化度の評価、評点の意味
3.補強計画の方針、結果
:補強計画案の内容、補強後の評点、今後の流れ
3【耐震診断報告書の内容】(例)
①調査報告(現況の報告)
1.調査概要
2.現況平面図
:設計図書との違いがあれば報告、補強工事に影響しそうな設備につても記録。
3.耐力壁調査図
:筋交い位置の表示、設計図書との違いがあれば報告、外壁・各部屋の仕上げ材を表記
:壁番号を記入、工事各所を示す番号として補強計画時や工事見積もりに使います。
4.劣化状況調査図
:基礎・壁のひびわれ位置を記入。基礎の分類と範囲を表記。
:水しみ箇所・床のたわみ箇所・床の傾斜の状況を記録します。柱頭の傾きを表現します。
:補修が必要、または今後メンテナンスで気を付ける点などを説明します。
5.各部写真
:小屋裏、床下の様子が分かる写真をまとめます。
:診断にかかわる接合部や基礎の状況の写真を添えて説明します。
:各部調査図で示した項目を写真で説明します。
6.地盤に関する結果結果
:地震時の地盤の状況による被害への影響を説明します。
:表層地盤分類図で調査地の状況を示します。
:1種~3種の地盤分類と必要壁量について説明します。
②現況耐震診断
現況診断計算書
:計算プログラムによる出力結果を使用して、以下について説明します。
・耐震診断は必要な耐力に対して保有する耐力を比較している。
・必要な耐力を算出するのに建物の重さ、地盤分類が関係している。
・耐力の算定に端部の金物、筋交いの寸法、基礎の種類、劣化の状況が関係する。
・耐力壁のバランス(重心と剛心)も大切。
・各階、X方向、Y方向別々に評価、2階建ての評価は4つ。低い物で評価する。
・評点とその数字が示す建物の強さの程度。
※細かい計算内容や数値の説明までは行わないが、要点は理解してもらえるようにする。
③補強計画図:補強計画図・補強計画耐震耐震診断計画書
補強計画図
:各部の補強内容を記載します。
・筋交い、合板張り、柱頭柱脚金物補強箇所を図示
・この図面に各部の詳細図を合わせることで補強工事見積もりが可能です。
補強後の耐震診断計算書
:計算プログラムによる出力結果を使用して、以下について説明します。
・補強後の評点について。
・新築の評価との関係
・どれくらいの地震に耐えることができるか。
※細かい計算内容や数値の説明までは行わないが、要点は理解してもらえるようにする。
4【木造住宅の構造的不具合】
①壁量不足
現行法によって建てられている木造住宅に比べて、設計図に記載されている耐力壁が、
全てその通りにせこうされていたとしても壁量が足りない。
②耐力要素の偏心
壁のバランスを考慮するとされていたが、計算によって確かめられてはいないので、
実際はバランスが良くない場合がある。
③金物不足
住宅金融公庫を利用して建てられている場合は、接合部に金物が使われていることがあるが、
柱頭柱脚に関しては現行法のように、耐力壁配置によって発生する引抜力を考慮した金物が取り付けられていない。
④基礎の問題
地耐力と基礎の仕様が定められていなかったため、地盤調査の結果から基礎を設計するということを行っていないので、
適切な基礎が作られていない。
1.調査上の留意点
:設計図に筋交いの表現があったとしても、その通りに筋交いが設置されている可能性は低いので、
必ず現地で確認することが基本。
:増築がされている場合、筋交いの寸法や柱頭柱脚の仕様が年代ごとに異なる場合があるので、
それぞれの部分で確認すること。
:耐震診断上、評点にあらわれない不具合も改修工事の際に改善できる箇所があるので記録しておきます。
:異なる構造の基礎が混在している場合があるので全体を確認します。
2.不具合事例
:筋交いの端部は、筋交いの種類に適合した金物を使う。(釘打ちのみや、不適合金物が使用されている)
:柱頭柱脚は、引抜力で決まる金物で留める。(金物で留められていなかったり、かすがいで留められている)
:小屋束端部は、かすがい又は金物で留める。小屋組は、小屋筋交いを設置する。(左記がない)
:床面には、床組みを補強する火打ち材を設け、端部はボルト締めとする。(左記がない)
5【経年劣化による耐力低下】
①構造材の劣化
:屋根、外壁などの劣化により、建物内部に雨水が浸入してしまい、梁・柱・土台が腐朽する。
又、水回りの配管部分からの漏水や周囲の結露によって土台が腐朽する。
②基礎の劣化・損傷
:不適切な基礎形状や無筋コンクリートで造られているため、又は、これまで受けた地震の衝撃によって、
基礎にひび割れが発生している。
③接合部の劣化・損傷
:不同沈下によって建物が傾斜している場合、これまでに地震で強い衝撃を受けている場合に、接合部のずれ、
亀裂、筋交い端部のはずれなどが発生している。
④白蟻被害
:浴室周辺、台所周辺など湿気が多い場所で、土台を中心に白蟻の被害を受けている場合がある。
ひどい場合は、柱から上にも被害が広がっている。
1.調査上の留意点
:構造体劣化は、天井裏、床下調査の際に、部材の表面の色の変化・シミなどに注目し、異常がある箇所は、
軽くハンマーで叩いたり、ドライバーでつつくなどして状態を確認する。
:基礎の劣化は、一般的に無筋コンクリート基礎の床下換気口・人通口の周囲によくみられる。表面のみのひび割れか、
貫通しているかを確認します。
:壁のひび割れがあったり、柱や床の傾斜測定で異常があった場合は、小屋裏、床下調査の際に異常があった個所の周囲を、
特に注意して観察します。
:羽蟻がでたことがある場合には、目撃場所周囲を注意して調査します。基礎外部と床下を調査し、蟻道があるか、
すでに被害を受けている部材はあるか、その場合は範囲を記録し、現在も白蟻がいるのかを確認します。
6【初期施工時、改修時の問題】
①耐力壁が、設計図の位置に設置されていない。
②耐力壁の仕様が、設計図と違う。
③増築時に、既存の耐力壁を確認しないで設計図をつくっている。
④改修時に、必要な耐力壁を撤去している。
⑤本来必要な部材が足りていない。
⑥施工方法の間違い。
1.調査上の留意点
:予想外の不具合を発見した場合、耐震補強以前の問題として補修が必要な場合があります。
:不具合個所を見つけた場合は、周囲の様子も含めて観察し、写真による記録を行います。
:小屋裏や床下で見つけた不具合は、後でその場所がわかるように位置を確認し、図面上に記録しておきます。
2.事例
:接合部の加工に不備がある
:筋交い設置方法に不備がある
:小屋束、梁、土台の長さが足りない。ほぞが入っていない。
:柱の上に梁が無い。間仕切りかべの上に梁が無い。
:床束が無い。基礎に穴が開いている。
:鉄骨梁を使っている。
7【耐震補強工事の内容はいろいろあります】
:在来軸組構法か、伝統的工法か
:補強の範囲は1階のみか、2階も補強するか
:全面改修か、一部改修か
:減築して、規模を小さくする
:住む人が変わり求める強さが変わる
→目的に合わせた補強計画を行う。
8【最後に】
:既存建物に関わる業務は、調査でどこまで把握できるかがとても重要です。
何を知りたいから、どこをどのように調べるかを考えて、要点を押さえた調査を心がけることで、
正確で効率の良い仕事が出来ます。
:耐震診断と耐震補強は、住まい手が耐震強度をどのように評価されて、どのような考えで補強されたいのかを理解し、
納得をしてもらった上で進めて行くことが大切です。工事後に安心して暮らしてもらうことが目的です。
:補強工事では、金物取付方法など、現場と打合せを行い、工事後に施工状況を確認します。補助金を使う場合は、
事前に自治体に注意事項を確認する必要があります。
第5回②:構造的不具合の原因と対策Ⅲ 井戸田秀樹 2023.6.10
〇住宅耐震化は防災の最優先課題
:家主の負担を減らす→安価な工事にする。工期を短くする。診断制度を上げる。
:家主の求める安心に答える→安心を実感できる説明。
:設計料について理解を求める→安くなる努力に対して報酬をいただく。
〇診断制度を上げる
:精算法+偏心率計算+N値計算の3点セット使用
:耐震改修専用工法を使う。→仕上げに極力手を付けず安価に。天井、床、土壁にはなるべく触らない。
〇7つの鉄則
鉄則1:負担減で家主を「その気」に!
→心に響くボキャブラリーを増やして家主との信頼関係の構築。
鉄則2:一般診断法Weeから卒業
→詳細診断法で診断精度向上(精算法、偏心率、N値計算)
→N値計算で金物工事を大幅合理化
鉄則3:必ず耐震改修専用工法を使う
→部分合板張り工法(A工法)等
→まずは、柱頭柱脚の金物補強から
鉄則4:新築のことは忘れる
→天井・床を解体せず壁の補強を改修設計の原則とする。
→基礎、屋根の改修は最後の手段
→出隅の連層耐力壁と筋かいは避ける
鉄則5:家主の求める安心に正しく応える
→今の不安、どんな暮らしを望む、求める安心は?
→地震から家族を守る3つのステップ
1.地震を知る。海洋型、内陸型、頻度、確率
2.自分の家の強さを知る。地震の大きさと被害の関係から評点を実感
3.安心に向けて今すぐ実行
→工事中も生活の場であることを忘れずに
→仕上がりについて事前に十分な打ち合わせをする
鉄則6:行政・地域・設計士のネットワークを活用する
→安価にする技術を武器に行政・地域と協力して所有者に働きかけ必要
→建築士どうしのネットワーク作り
→窓口担当者と一緒にスキルアップ
鉄則7:耐震改修も夢を語る
→自宅を想う家主の気持ちを考える
→改修後のライフスタイルを提案する
→建築士の仕事は「建築で夢を叶えること」
→バリアフリー工事や水回りのリフォーム工事を一緒に提案し、工事完了後の満足度を上げる
第6 回①:設備の劣化診断と対策 清水基之 2023.7.1
1.上水道と下水道
上水道とは飲用可能な水、中水道とは工場や農業用水
下水道には2方式。
①合流式:汚水と雑排と雨水を下水本管へ放流。
➁分流式:汚水と雑排のみを下水本管へ放流。雨水は雨水本管や側溝に放流。
2.給水管の種類
①鋼管:配管用炭素鋼鋼管<SGP>、硬質塩化ビニルライニング鋼管<VA.VB.VD>、水道用ポリ粉体鋼管<PA.PB.PD>
➁ビニール管(主流):硬質塩化ビニル管<VP>、耐衝撃性硬質塩化ビニル管<HIVP>
➂ポリエチレン管(主流):水道用ポリエチレン管<PEP>、架橋ポリエチレン管(住宅主流)
④その他:鉛館、ステンレス管(施行難、コスト高)
【住宅に使用する(給水)配管材料の推移】
埋設箇所:ビニル管<VP> 隠ぺい及び露出箇所:鋼管<SGP>または すべてビニル管<VP>
→埋設箇所:ビニル管<VP> 隠ぺい及び露出箇所:鋼管<VB.PB>または すべてビニル管<HIVP>
→埋設箇所:ビニル管<HIVP> 隠ぺい及び露出箇所:架橋ポリエチレン管または ビニル管<HIVP>
※ウオーターハンマー:水弁を急に締めると水圧が上がり「ゴンッ」と音がする。
※「クロスコネクションの禁止」上水道に、井戸水や温泉水、受水槽などを接続することは水道法で固く禁止されている。
3.給湯管の種類
①鋼管:配管用炭素鋼鋼管<SGP>
➁ビニール管:耐熱性硬質ポリ塩化ビニル管<HT>(食洗器等 あまり高熱はダメ)赤っぽい
➂銅管:火であぶって蝋でつける。少し前まで使われていた。
④ポリエチレン管(主流):水道用ポリエチレン管<PEP>、架橋ポリエチレン管(住宅主流)
【住宅に使用する(給湯)配管材料の推移】
鋼管<SGP>→銅管→架橋ポリエチレン管
※鋼管は、土中における微電流による腐食のため埋設に不向き。紫外線に強く、露出配管での施工があった。
降雪地域で凍結による管の破損を防ぐため用いられた。
また鋼管と銅管を直接つなぐと電食が起きるため相性不向き。後に架橋ポリエチレン管が主流となる
※架橋ポリエチレン管は、紫外線に最も弱い。太陽光で急激に劣化する。
※鉛管は、曲げ加工が容易だが、鉛が溶け込み人体に有害であるとされ、昨今では撤去されている。
※給水ヘッダーは継手を管末にしか設けないため水圧変動が少なく流量が安定している、配管途中の接続部がないので漏水の心配も少ない。
メンテナンスも容易。埋設や紫外線があたる箇所には不向き。床下のスペースで維持管理。
4.排水管の種類
①鋼管:排水用硬質塩化ビニルライニング鋼管<DVLP>
➁ビニール管:硬質塩化ビニル管<VP>、硬質塩化ビニル管<VU薄肉管>(継手の種類が多く施工し易い)
➂その他:陶管(土管)
※排水勾配は50Φまでは1/50,100Φまでは1/100,200Φまでは1/200を標準
※管径の120倍を超えない間隔で点検口を設ける。(Φ100で12m間隔、Φ75で9m間隔)
勾配をとりすぎていることにより流れないこともある。WCの上流に浴槽排水を持っていくのもよい。
※点検口は、1階床は排水管の合流場所や曲がり箇所に設置が望ましい。
2階は下から排水管が修繕できる場所。パイプより少し離れた体が入るところに寸法450角の既製品点検口。
※トイレ排水音を消すためには、防露材を巻いたり、耐火2層管を用いたり、「音ナイン」という商品を使用する。
※排水ヘッダーは、基礎貫通部分が少なくて済む。桝を削減し外部工事が軽減できるが、ヘッダーのコストは高い。
個別に外に出した方が掃除しやすく点検しやすい。
| 器具 | 排水管の最小口径 |
| 洗面器、手洗い器 | 30~40 |
| 手洗い器(小型) | 30 |
| キッチン | 40~50 |
| 浴槽(在来・UB) | 75.50 |
| 大便器 | 75または100 |
| 小便器 | 40~50 |
| 掃除流し | 65 |
| 床排水 | 65~75 |
| 雨水管サイズの決め方 | 管径(mm) | 屋根面積(㎡) |
| 屋根面積(㎡)=降水面積(㎡)×最大降水量(mm/h)/100 | 50 | 67 |
| 65 | 135 | |
| 75 | 197 | |
| 100 | 425 |
5.トラップの種類(下水道からの下水臭を封水により防臭):封水深さ5cm~10CM
①Pトラップ:手洗器、洗面器用として広く使用される。通気管を設ければ封水安定の理想形
➁Sトラップ:手洗器、洗面器用として広く使用される。自己サイホンを起こしやすい(封水が無くなり易い)
➂Uトラップ:排水管の流速を阻害し、汚物の停留を招く欠点有。やむ得ない場合以外は使用しない。
④ドラムトラップ:流し類の排水用。封水を多量に貯留できる構造。
⑤ベル(わん)トラップ:浴室、水洗便所の床排水等。封水低いので引っ張られる、常時水を流すところ以外は使用しない方が良い。
※2重トラップを防ぐこと。(封水が破壊される)中の空気が動かなくなる。ゴボゴボと音がしたりする。
※通気管にドルゴ通気弁を使う際、高さを「あふれ縁」から15cm以上上にする。
※ユニットバスにはトラップが付いているので、2重トラップにならないよう注意。
※伸頂通気を設置する場合は、窓から60cm以上、水平距離3m以上離隔をとる。
6.ガス管の種類
屋外・埋設:ポリエチレン管<PE>、ポリエチレン被覆鋼管<PLS>
屋内・露出:亜鉛メッキ鋼管<白管・SGP>、フレキ管
※都市ガスはプロパンガスより圧力が低いため、都市ガスは一口径大きいサイズを使用する。(都市ガス25A、プロパン20A)
プロパン→都市ガス変更の際は、既設利用ができない。なお、ガス漏れはメーターで検知する。
7.量水器:給水メーター口径の目安
| 給水メーター口径の目安 メーター(mm) | 水栓数 |
| 13 | 1~7 |
| 20 | 8~14 |
| 25 | 15以上 |
水圧の地域差により、水栓数が10か所でもΦ13で給水可能の場合もある。
8.浄化槽の人槽
床面積130㎡以下であれば5人槽、130㎡を越えれば7人槽、
2世帯住宅でお風呂やキッチンが2か所ずつあれば10人槽
※設置場所は、下水道切り替えを考慮すると、出来る限り放流先に近い方が良い。
第6 回②:住宅改修における高齢者対応 宮﨑千重 2023.7.1
:70歳以上で身体障害が増え、81歳以上で事故が急増する。
:4歳以下や、65歳以上、80歳以上は、交通事故より家庭内事故死が多い。入浴時のヒートショックなどをきっかけとして死亡。→住まいの備えが不可欠。
:65歳以上の不慮の事故原因として、同一平面内での転倒(小さな段差)が85%を占める。
【身体機能の低下によりできていた事ができなくなる。】→動ける時は、人が環境に合わせることができるが、そうでなくなると環境を人に合わせる必要。
階段の事故(下りるときの事故が、上がるときの事故の4倍)、床・畳・敷居・マットのつまづき、滑り、ひっかかり事故。
加齢による身体機能の変化で、円背になると重心がつま先になる。
:どのような生活をしたいか、そのためには何が問題!何を改善!という視点で住環境の整備案。(いろいろな専門職が関わる)
生活全体をイメージ:ころばないように。車いすでトイレが使えるように。浴槽に入れるように。流し台・洗面が使えるように。階段手摺。玄関手すり。
その後の可変性を考えておく。
①認知機能低下への対応(重度では使えなくなるもの多い)文字、絵、照明で見える化。ボタンや扉を隠す。空間を捉えやすい配色・模様、適度な距離感。
➁身体機能低下への対応(重度になっても有効なものが多い)介護ベッド、リフォーム、手すり、段差解消などのバリアフリー・安全性
1.高齢者の居住に関する指針
①高齢者がきぃお住する住宅の設計にかかわる指針
➁住宅性能表示制度:9.「高齢者等への配慮に関すること」→高齢者配慮対策等級(等級1~5)
等級3、4(介助用車いすレベル)、等級5(自立用車いすレベル)→基準を満たしていても万全ではない。後からバリアフリー対応追加も想定。
日常生活空間はできるだけ同一階に。寝室近くのトイレ。ベット廻りのコンセント設置重要。
2.手すり
:形状と設置高さ
①縦手すり:身体が上下方向に移動する場合 上端は肩から100mm程度上方、下端は大転子と同程度。
➁水平手すり:身体が水平方向に移動する場合 床から750mm~850mmの高さ
:手すりの直径
①Grab Bar(グラブバー):握る手すり 太さ28mm~32mm
➁Hand Rail(ハンドレール):滑らせる手すり 太さ32mm~36mm
:トイレで使う手すり
トイレ動作で使う手すりは便座形状から位置が決まります。
①L型手すり:便座の先端から200~300、便座の高さから220~250の位置 ※身体状況で位置が前へ出る。便座から300程度(前かがみで掴む)
➁縦手すり:便座から200~300、長さは800、太さは28~32、上端高さは肩から100上方
※合板下地(べニア厚12mm)を壁全体に入れておくと良い。(将来、身体状況で位置が変わることがある)
:生活の中で小さなてすり(普段の動きを見て)
ドアの開け閉めの体を安定するためのもの
3.段差解消=スロープではない
:スロープは足首に負担がかかる。簡易スロープは毎日の出し入れが手間。急勾配は怖くて危険。介助する人の負担も考える。
4.車いす
:車いすの寸法・仕様は多種多様、必要な回転スペースも違ってくる。(調整機能付き、駆動輪位置の違い、6輪車型)
:廊下幅は簡単に広げることは難しい。芯~芯910mmの場合、内法有効寸法780mm。
:標準型・自走式車いすで、木造住宅の廊下から部屋への移動を想定した場合。
①廊下幅780、開口幅800、全長1089(一般)→移動は無理。
➁廊下幅780、開口幅850、全長1089(一般)→ぎりぎり通れる。
➂廊下幅780、開口幅800、全長990(コンパクト)→なんとかスムーズに通れる。
④廊下幅780、開口幅700、全長(6輪車)→なんとかスムーズに通れる。
:家と外で同じ車いすを使う人、家と外(電動)は別の車いすの人、外だけ車いすで家では手すりづたいに立つ人。様々。
玄関に車いす用の充電設備が必要な場合もある。
第7 回①:契約実務の留意点 中尾太郎、木津田秀夫 中尾法律事務所、胡桃設計 2023.8.5
○責任と原因
1.債務不履行(契約不適合)旧:瑕疵担保責任、「契約不適合」(瑕疵)とは、契約上予定されていた性質を欠くこと
施工上は結果債務:契約関係があることが前提(異説有り)、無過失責任:落ち度の有無を問わない(異説有り)
設計上は手段債務:契約関係があることが前提、過失責任に近い善管注意義務違反
契約不適合の類型
・約定違反型:明確な契約内容に違反する。例:雨漏修繕きっかけで内装リフォーム。工事対象は一部、残部には触れず。
・法令違反型:建築基準法等に適合しない。例:耐震補強が基準法に定める工法でない。
・施工精度型:技術水準などに反する
責任原因
・債務不履行責任:追完請求、代金減額請求、損害賠償
・責任を負う期間(契約内容)
:引渡時から木造1年、コンクリート造・金属造など2年、知った時から1年以内に通知
:構造を問わず5年(知らなくても10年)
・新たな短期・長期消滅時効
:権利を行使することができることを知った時から5年
:権利を行使することができる時から10年
※契約又は約款で対処(1年、2年にしておく)しておかなければ、最長10年間の責任追及のリスクと資料保存必要。
・責任を負う期間(法令制限)
:消費者契約法8条1項5号:契約によって担保責任を完全に排除することはできない。
:住宅品質管理法87条1項:新築住宅で、構造耐力上主要な部分又は雨水浸入防止部分として政令で定めるものは
引渡時から10年
・不法行為責任
:「故意又過失」があること・違法であること:契約関係が無くても発生する。
:違法であること:「建物としての基本的な安全性を損なう」もの
①建物の構造耐力に関わる契約不適合
②放置した場合に人身事故につながる危険がある
③放置した場合に漏水・有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険がある
・責任を負う期間(不法行為責任)
:知った時から3年、工事の時から20年
・生命・身体に対する損害賠償請求権
:長期消滅時効であって除斥期間ではない、援用は不要、完成猶予・更新がない、適用制限がない。
2.契約:契約内容が不明確であることが紛争を生じさせる。
・債務不履行責任も不法行為責任も「契約不適合」(契約上予定されていた性質を欠く)があることが要件
・契約=当事者の合意内容の中身
契約書(工事内容、請負代金、着手完成時期、支払方法、損害額予定、債務不履行責任の存続時間・紛争の解決方法)
約款(民間(旧四会)連合協会・工事契約約款、住宅リホーム推進協議会標準契約書式、日弁連住宅建築工事請負約款)
・当事者の合意内容が不明確な時は、以下の事情から当事者の意見を解釈
:契約締結に至る経緯:図面・仕様書、見積書、打合せ議事録・確認メモ、SNSなどのやり取り
:建築基準法令・技術水準:融資条件(フラット35)、メーカー仕様書、日本建築学会・建築工事標準仕様書(JASS)
・トラブルを避ける
:契約前に明確な書類を残す。
材料費と施工費を分ける。材料費には数量・単価さらにはメーカー品番を記入。施工費には作業内容・範囲を記入する。
図面変更時には変更前の図面も残す。図面交付時には、交付日時・受領の著名を残す。
:契約後に信頼関係を維持する。
管理報告書や写真を送る(コンタクトを取る)
施主からの問い合わせに速やかに返信する。(トラブルも速やかな対応で訴訟に移行しないことが多い)
第3者に相談する
要求に応じられる部分と応じられ婦負部分を決めておく。ミスは謝罪し、不当な要求は拒否する。
・トラブルになった場合(請負代金を払わない、施主からの不当な要求)明確な書類を残した者が勝つ。
:民事調停:こちらも譲歩が必要。証拠で勝負を決する場ではない。目標は調停委員の説得で相手方の説得ではない。
(民事調停法1条:民事紛争につき、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図ることを目的)
:民事調停の終わり方3通り
調停成立→強制執行。調停不成立→訴訟へ移行。17条決定→裁判所による決定。
:民事訴訟法247条「裁判にあたり、…証拠調べの結果を斟酌して、自由な心証により…主張を判断する」
「証拠調べ」主要な証拠は2つ。書証と人証
「自由な心証」書証・人証からみて原告・被告どちらのストーリーが合理的か
:訴訟(民事訴訟法182条)「証人および当事者本人の尋問は、争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行う」
尋問以外は、争点整理のための準備書面と書証の確認、次回期日の決定だけ。
尋問の前に争点整理と書証の整理が済んでいて、尋問で結果がかわることはほとんどない。
平均審理期間は、建築請負代金支払請求訴訟で15.7ヶ月。損害賠償請求で25.2ヶ月。
判決でなく和解で終わることもある。
付調停:調停委員として建築士が加わり、争点整理・和解交渉を行うことがある。
第7 回②:既存住宅改修と法規関係 稲岡宏 兵庫確認検査機構 2023.8.5
Ⅰ建築確認の必要な改修工事とは
・法6条1項1号から3号までは「建築」「大規模の修繕」「大規模の模様替」において確認申請が必要。
法6条1項4号は「建築」する場合のみ申請が必要。
・「建築」については、法2条1項13号に「新築」「増築」「改築」「移転」と定義
・4号建築物は、大規模修繕・模様替(主要構造物過半の工事)の確認申請は現在のところ不要。(防火・準防火地域含む)
2025年の法改正により、4号建築物の、大規模修繕・模様替は確認申請が必要になる。
「大規模」とは、主要構造部の1種以上について行う過半の…
「主要構造部」とは、壁・柱・床・梁・屋根又は階段。1種類でも該当すれば、大規模修繕・模様替となる。
・既存不適格となった建築物を増改築する場合、増改築部分以外の既存部分へは、改正後の基準への適合を基本的には求めない(遡及適応しない)扱いとする。
・屋根葺き材のみの改修を行う行為、既存の屋根の上に新しい屋根をかぶせる(カバー工法による改修)は大規模な修繕、大規模な模様替えには該当しない。(1号から3号も)
・外壁補修に関して
:外壁材のみを修繕・模様替え:防火上主要な部分である外壁の修繕・模様替えに該当し必要(大規模な修繕・模様替えに該当)
:既存外壁を残して別の素材で覆う:壁面積の過半の外壁構成を変える場合には該当(4号は不要)
:外壁の内側のみの修繕・模様替え:内装材が外壁の防火上の構造の一部である場合は該当する。
:外断熱を付与する断熱改修:床面積の算定ラインが変わらなければ床面積は変更なしとなり、増築に該当しない。
・階段の付け替えは大規模の修繕・模様替え?
:階段の付け替えが「過半」になる場合、例えば1個所しか無い階段を付け替える場合は、過半となり該当する。
・減築も確認申請が必要な場合がある。2階減築で1階に屋根発生、減築した同じ面積を他の部分に増築する場合など。
Ⅱ増築及び既存不適格
・既存不適格建築物に対する緩和規定点適用基準
:既存不適格建築物に対する増改築や大規模の修繕・模様替えでは、建築基準法に定められた規定が限定的に緩和される。
:令137条の2は、法20条(構造耐力)の緩和の範囲を定めている。
:エキスパンションジョイントで別の建築物とみなし、既存部分は遡及適応を受けずにすむ。
Ⅲ4号木造住宅の増築申請手続き
:増改築の建築確認申請における必要な図書
①既存不適格調書:既存不適格となっていり規定及びその部分と基準時。
②既存不適格を構成する図書:平面図、配置図、検査済証又は確認済証又は請負契約書
建築確認手続き等の運用改善マニュアルが参考になる。https://www.mlit.go.jp/common/001185458.pdf
第8 回①:防火性能の改善と対策Ⅰ 安井登 桜設計集団 2023.9.2
最新の法令基準を理解する~木造の可能性:木材の防火性能の再評価が行われている。
1950年 建築基準法:都市の不燃化 木造からRCへ
1987年 基準法改正:燃えしろ設計 2階建てまでで燃えしろ設計可能に
1992年 基準法改正:準耐火建築物の概念導入 3階建てまで45分準耐火構造による設計可能
2000年 基準法改正:防火法令性能規定化 木造耐火建築物の登場 防火地域や4階建て以上も木造化可能に
2010年 公共建築物等木材利用促進法制定 3時間耐火構造であれば階数制限無し→現在11階まで
→低層の建物は積極的に木造化を促進、中高層の建物は木質化しなさい!と規定(民間主導から国の主導へ)
2015年 基準法改正:法第21条、27条の性能規定化 1時間準耐火構造による木造3階建て学校の登場
2019年 基準法改正:耐火要件の性能規定化 高度な準耐火構造+安全上の措置による4階建て以上の建築物登場
2023年 基準法改正予定:延べ面積200㎡未満、3階建て以下は、一定の措置を講ずれば、法27条免除
(警報設備、竪穴区画(間仕切り壁+防火設備または10分防火戸)
:防火地域・準防火地域内の高さ2mを超える門・塀を不燃材以外で建設可能
(厚さ24㎜以上の木材で隙間なくつくる、土塗り壁30㎜以上)
2050年 カーボンニュートラルの実現?
○山にある木材は、枝打ちをしていけば無節の良い材料になる。
○もえしろ寸法として、集成材は35㎜、製材は節などの欠点が支配的になるので45㎜としているが、ゆっくり燃える順番は、
製材>単板積層材LVL>集成材となる。集成材は接着剤のところで炭が落ちるが、製材は炭が落ちずに形成されるため。
○木造とRC造・鉄骨造の何が良くて悪いのか?
①耐震性 ②防耐火性 ③断熱・気密性 ④遮音性(上下階・隣室)⑤耐久性 ⑥居住性 ⑦メンテナンス性
→④遮音性は、床を重く固くするRCにかなわないので、静かな環境が必要な部屋は上階に計画する。
→⑦メンテナンス性、傷むのは雨に濡れるところ。取り替えやすく
:火事は、なにもかも燃えて無くなる!
例:学校火災実験(学校は内装制限がかからない。)
床は1時間耐火構造で防火区画してあったが、天井が木質化してあったことが問題。
1階から出火した火は可燃物に燃え移り、3分でフロート硝子を割り空気が入り放題、1階窓から2階窓への延焼がおき
約6分でフラッシュオーバー
対策:防火サッシ、天井不燃化(壁もそうだが)、庇・バルコニー(上階延焼防止)、出火防止
例:福岡・旦過市場火災2022年8月
木造モルタルの隣家が燃えなかったのは、隣り合わせに窓がなく延焼経路がなかったこと。
隣の建物が激しく燃えるのは20分間。大概消防車は10分で来る。20分間は保たせる。
例:新潟・糸魚川大火2016年12月22日 強風(瞬間風速24m)、消防車6台→130台、木造密集地
中華料理店から出火(鍋の空焚き)ダクト内火災。
小屋裏のダクトを抜いてある部分からくすぶり、いきなり小屋裏に火がでた。小屋裏火災は消火活動が難しい。
→ダクトは木に取り付けない、細い支持材で取り付けない(ずれる)
燃えなかった木造は、窓が防火戸であったこと。RC造も窓から火が入り燃えている。
→窓から窓へ延焼する。窓をずらすのも効果的。
焼けなかった奇跡の1棟と呼ばれたたてものは、比較的新しい建物に囲まれ、隣棟間隔が十分あった(1.8m、9m、11m)
:木造は燃えると焼損床面積が大きい。防火性能を上げると減る。
:たとえ火災にあっても、燃え抜けない建築 を建築基準法は求めている!
:木材は、1㎜/1分でゆっくり燃える(炭化)。15㎜で15分間燃え抜けない。
:PB12.5㎜は、15分間燃え抜けない、表裏で30分。水分を持っているため、燃えても100℃で温度停滞する。
:強化PB12.5㎜は、PB12.5㎜の2倍で30分間燃え抜けない。
:土壁4㎝は、1時間燃え抜けない。(隙間無ければ)
(支援機構の省令準耐火は15分燃え抜けないこと。)
○準防火構造:20分(隣の建物が激しく燃える20分間、火炎を貫通させない性能)
○防火構造 :30分(建物が燃え尽き崩れ落ちる時間)
○準耐火構造:30分、45分、1時間
○耐火構造 :30分、1時間、2時間、3時間
○防火設備 :20分
外部:隣棟火災は「燃え抜けない」が重要→木材を太く・厚く使う。
内部:内部火災は「燃え広がらない」が重要→連続して燃え続けないようにする。
:天井の不燃化、内装制限(煙がでないように)
:木材は酸素が足りてる時は有害なガスは出ないが、足りなくなると一酸化炭素がでる。
:木材は15%~20%の水分を持つので200℃以上になかなか上がらないが、木材は200℃でガス化し燃える。
:木材は本来燃えにくい。杉15㎜で内装木質化(壁・天井)しても、室内の可燃物が無ければ20分もつ。
杉15㎜は15%含水率として、750㎖/1㎡の水分を保つ。
:室内に可燃物が多いとフラッシュオーバーする。
:燃え方をコントロールする(ガスコンロ、薪ストーブ)
:天井を準不燃材料とすれば壁は木材で良い(1988年 H12建設省告示第1439号)
木材は、比重が小さく、軽い・熱伝導率が低く、熱が伝わりにくい、比熱が高く、暖まりにくく冷めにくい。
第8 回②:防火性能の改善と対策Ⅱ 安井登 桜設計集団 2023.9.2
事例から学ぶ、防火性能を上げる改修方法
長く残したい設計上の工夫
焼杉:仕上げを張って木造躯体を濡らさない。京町家:焼杉12㎜で30年~40年もつ。取り替え前提。
深い軒:屋根の軒を出して木造躯体を濡らさない。五重の塔(醍醐寺)
火災は成長する災害!
出火原因は、たばこ・ストーブ・コンロ・電気機器等、失火が多い。
住宅火災は建物火災の約半数、2.5人/日の死者、65歳以上の死者が7割強→火事は起こる前提で対策する。
建物被害軽減
:出火しない木造(火をコントロール)
:急激に燃え広がらない木造(天井不燃化)
:消せる木造(消防隊は東京で約5分、市街地で約10分で到着するが、危ないところには入っていかない)
避難安全
:逃げられる木造
:逃げなくて良い木造(バルコニーで待てる)
:助けてもらいやすい木造
耐火建築物(構造躯体)にしただけでは必ずしも安全な訳では無い。
木造とRCの違いは構造躯体だけ。仕上げ(内装・外装)、収納可燃物(家具等)が燃えて火災となる。
1.火を出さない
コンロ等の火源周囲から可燃物をなくす(80㎝、できれば1m以上離す)
8割が収納可燃物からの出火(収納スペースの確保)
放火対策(死角をつくらない)
2.火災を早く見つける
自動火災警報器の設置(H23~)
3.火を消す
消化器の設置、水の汲み置き、消火栓
4.火災を封じ込める
区画する(酸素供給を絶つ、扉を閉めるだけで有効)
5.煙から守る
不完全燃焼しにくい仕上げ材の利用
(フラッシュオーバーが起こるとCO10%前後発生する。0.1%に下げるには100倍の新鮮空気が必要になる、無理)
煙を排除する
(排煙・畜煙計画(自然排煙・天井高さの利用)
6.逃げる
避難路の確保(二方向避難、避難経路の可燃物の管理、バルコニーの有効な配置)
7.消防隊に助けてもらう
救助活動の阻害要因の排除
8.災害弱者を守る
高齢者、障害者、子供、寝たきり者
9.火災で倒れない
耐火と防火(十分な避難、救助時間を確保する)
地震と火災(地震で倒れず、防火性能は保持されるようにする)
※防火構造・準耐火構造は火災で倒れないための手段
①構造躯体:燃え抜けない、燃えて壊れない
②内装:燃えない、燃え拡がらない
③収納可燃物:燃えない、燃え拡がらない
構造躯体がゆっくり燃える又は燃えないようにすれば建物の防耐火性能は向上する。
:防火造 外壁・軒裏を防火構造→屋外火災に対抗
:準耐火構造(イ準耐火建築物)主要構造部を準耐火構造→内外火災に対抗
:耐火構造(耐火建築物)主要構造部を耐火構造→内外火災に対抗
※主要構造部:壁(外壁・間仕切壁)、柱、梁、屋根、階段
□建築基準法
:内装制限 避難安全性確保、出火防止(居住者が煙・火災にまかれない)
:防耐火構造性能 延焼防止、市街地火災防止(建物が崩壊炎上しない)
準防火地域の防火構造制限
:1,2階、500㎡以下→木造(その他)延焼の恐れある部分の外壁・軒裏は防火構造とする
:500㎡以上~1500㎡→準耐火建築物
法22条区域の防火構造制限
:床面積1000㎡以下の住宅は延焼の恐れある部分の外壁を準防火性能とする。
:床面積1000㎡超える住宅は延焼の恐れある部分の外壁・軒裏を防火構造とする。
防火構造
:外壁(耐力壁)非損傷性30分、遮熱性30分 ※非耐力壁は遮熱性のみ
:軒裏 遮熱性30分
準防火性能
:外壁(耐力壁)非損傷性20分、遮熱性20分 ※非耐力壁は遮熱性のみ
準耐火構造
:外壁(耐力壁)非損傷性45分、遮熱性45分、屋内側からの遮炎性45分
:外壁(非耐力壁)非損傷性ー、遮熱性45分、屋内側からの遮炎性45分 ※延焼の恐れある部分
:外壁(非耐力壁)非損傷性ー、遮熱性30分、屋内側からの遮炎性30分 ※延焼の恐れある部分以外
:間仕切壁(耐力壁)非損傷性45分、遮熱性45分
:間仕切壁(非耐力壁)非損傷性ー、遮熱性45分
:柱 非損傷性45分
:床 非損傷性45分、遮熱性45分
:梁 非損傷性45分
:屋根 非損傷性30分、屋内側からの遮炎性30分
:階段 非損傷性30分
【防火構造建築物】建物外周に防火性能:建物周囲の火災に抵抗。
延焼の恐れある部分の、軒裏:防火構造(30分)、外壁:防火構造(30分)、防火戸(防火設備)
屋根葺材:不燃材料等
【準耐火建築物】建物の主要構造部を準耐火構造とし、建物外部・内部を防火的に補強する。建物周囲・内部火災に抵抗。
延焼の恐れある部分の、軒裏(45分)、防火戸(防火設備)
屋根葺材:不燃材料等、屋根の屋内側又は直下の天井(30分)、軒裏(30分)
外壁(耐力)(45分)、外壁(非耐力)(30分)、間仕切壁(45分)
柱(45分)、床(45分)、梁(45分)、階段(30分)
「古い家を直す」改修で、防火性能を上げると耐震性能も向上する。
土塗り壁の防火性能に影響を与える要素
:土塗り壁厚さ(遮熱性)40㎜以上で防火構造
:柱と土壁の接合性(遮炎性)隙間ないように
:柱の炭化(非損傷性)
※土壁(裏返し塗りあり)厚60だと、800℃で60分加熱して漸く100℃
木材の遮熱性
:杉厚30㎜は、800℃で30分加熱して漸く100℃。杉15㎜は15%含水率として、750㎖/1㎡の水分を保つ。
水分があるうちは100℃を超えないが、100℃を超えると、そろそろ200℃でガス化し燃え抜ける
木材は、1㎜/1分でゆっくり燃える(炭化)。30㎜で30分間燃え抜けない。
外壁
:土壁をもとに戻す・傷んだ柱は補修する。耐震性能と防火性能を持つ面材で補強する(地震時に脱落しないように配慮)
軒裏
:燃え抜け防止性能が確保された仕様にする
:小屋裏に火を入れない
:野地板上部または面戸板からの火炎貫通を防止する
※軒裏の改修:別途参考資料あり
窓:隣家と近い場合は防火措置をする。(ずらす、網入り硝子、遮蔽板など)
屋根:不燃材料で葺く
消火器:出火確率の高い部屋に配置
住警器:出火確率の高い部屋に配置
内装材:出火確率の高い部屋の壁・天井を燃えにくいものにする。火源から80㎝以内には可燃物を配置しない。
木製格子:外からの火災に有効、室内への熱を遮る。延焼の恐れある部分の開口部には準遮炎性能(20分)が要求される。
防火・耐震化改修の意義と概念
1.地震時に、外壁モルタルや瓦が脱落して、下地材が露出すると燃え草となりうる。
2.火災時の建物の崩壊は柱の座屈によることが多く、壁を補強する必要が大きい。
3.耐震補強も防火補強も「壁」を補強するのであれば、両方の性能をもつ面材・塗り壁で補強すれば良い。
(グラスロック:吉野石膏、壁王:旭トステム、ニクスボード:日鉄住金鋼板)
改修仕様例
外壁:準耐火構造(45分)レベル H12建告第1358号
屋外側 窯業系サイディング16㎜厚、軽量モルタル15㎜厚、金属断熱パネル35㎜厚、土塗り壁70㎜厚
屋内側 土塗り壁30㎜厚、石膏ボード15㎜厚、強化石膏ボード12.5㎜厚、土塗り壁70㎜厚
軒裏:準耐火構造(45分)レベル H12建告第1358号
モルタル20㎜厚、硬質木片セメント板12㎜厚、面戸板45㎜厚+野地板30㎜厚
開口部:防火設備(20分) H12建告第1360号
アルミ防火戸、鋼製シャッター、石膏ボード+金属板、鉄扉
どの壁を補強するか
1.まずは、外壁屋外側を補強して、隣棟からの類焼を防ぐ(30分の遮熱性・遮延性・非損傷性)
2.そして、外壁屋内側を補強して、隣棟への延焼を防ぐ(30分の遮熱性・遮延性・非損傷性)
3.さらに、間仕切りを補強して、隣棟への延焼を防ぐ(30分の非損傷性)
密集市街地に準耐火建築物が増えると街としての防火性能が向上する。
火は、燃える物が連続して無い場合は、勝手に消える。
第9回① 構造不具合の原因と対策④ 事例から学ぶ、伝統木造の改修方法 松井郁夫 2023.10.2
ー 貫をやめてはいけなかった +足固めと木組み ー
:「民家は生きてきた。簡単に柱を動かすことはできない。柱につながっている構造がそれを許さない。民家はコンクリートや鉄の建築につながっている。」:伊藤ていじ「民家は生きてきた」東大の歴史の先生1958年
:「民家は再生機構を持つ住居である。」(梁と柱で構成)民家はコルビジェの言うドミノシステムである。(柱、スラブ、階段)稲地敏郎
:わたしたちは長らく、日本建築の本流が民家であったにもかかわらず、あまりにも普通で身近なものとして気付かず、すすんでその技術と美しさを引き継ごうとしてこなっかたのではないか。柳宗悦「民芸運動」昭和15年
:白川郷の合掌部落:根曲がりの木で根っこの曲がったところを桁におく、わくのうちの作り方。壁がなくて開放的。
:壁を耐力壁ととらえるのは、大正時代に構造学者の田辺へいがくは、地震て倒れた家をみて「大工からカンナとノミを取り上げろ」「これからは壁が耐力をもつのだ」でも足元は固めない方がよいと考えた。
:「豆腐を針金で釣ってはいけない。」金物が木を壊す。
○日本の民家は各地方の風雪などの気候や養蚕等の用途や伝来の歴史で屋根は違えど、柱や梁構造は共通。※石置き屋根、苦土つくり(2棟が1棟になる過渡期)
○日本の民家は縦横材でできている。斜め材は出ない。
○大工は、鉛直方向の力しか考えなかった。足下はフリーで、地震時にはずれてくれる。
〇日本にはお城や旅籠等を除き、2階建てはなかった。平屋か、あっても1.5階のロフトだった。明治になって西欧化することが文明開化だった。洋風の建築で2階建てを作った。横材(横繁)を入れた。のちのの胴差。斜材(筋かい)をいれた。この流れが現在の在来工法に繋がる。
○日本の伝統は明治で分断されている。西欧化が日本の文明開化と洋風建築への変遷。和洋折衷。
〇中村達太郎:第五回日本建築史学会長:日本建築辞意(フランスで知識を学び、フランス建築を訳しただけ)光付けがでていない。→改定。
○和洋折衷で、斜め材、筋違、横架材、胴差が入る。洋風建築からの移行。和洋混在。日本は足し算の文化。
○日本の良さを検討せずに欧米文化をとりいれた。
○濃尾地震後、外国の建築家が筋違いを入れる。
○間柱の導入や真壁構造において筋違と共存しがたい部材として貫の衰退が始まったこと。
○二次大戦後の復興のため、建築基準法(べからず法、バラック法?)が制定される。庶民の住宅は在来軸組・金物で早く簡便に作るべし。伝統的なものは文化財でやれば良い。→パネル、枠組、集成材。
○限界耐力計算が2000年に認められる。(超高層のように、揺られて力を逃がす)
2007年に筑波の実大実験により、木のめり込みと摩擦力によって力を減衰する、貫の復元力特性が確認される。
2008年~2011年、国交省による伝統工法見直しの実大実験。基準法に移行するため。100年住宅の模索:(福田武夫、三沢千代治)
3尺おきに束はだめ。足固めに束はなるべく建てない。束石は結露防止のウレタン。
○古民家の定義(伝統工法見直しの実大実験の際)
:明治24年の濃尾地震以前に建てられた日本古来の構法を伝える庶民の住まい。
:通し柱と貫や足固めを多用し、胴差しや筋違は無く、接合部に無垢の木の継手・仕口を使い、金物に頼らず、地震や台風に耐える、伝統的な木組みの家。
※濃尾地震以前の建物。
○古民家の優位性:木組による耐震。
:貫の復元力:何回揺れても戻る壊れない。筋違いは、もともと台風対策。浅草の物見やぐらは、台風37mに耐えるといわれたが関東大震災で倒れた。
:足下フリー:石場置き、足固め。地震時はずれて免震。
:柱・梁でつくる。胴差し(明治以降)はなかった。(地震で折れる)
2階建て(明治以降)は旅籠等で庶民は少なかった。1.5階(納屋)
:軸組重視:壁に頼らない。間取り変更の柔軟性。
:木の特性を活かす。少し小さな穴に大きな木を入れてめり込ませながらつくる。めり込み・摩擦・減衰に強い。仕口・継手で力を逃がす。プレカットは金物工法。
:赤身は耐久性や水に強いが、死んだ細胞。ボルトをいれても弱い。白太のほうが強い。プレカットの金物は、ぼそぼその赤身にボルト(ちくわボルト?)金物が木を壊す。
○地震国日本の家
:自然の猛威に立ち向かう→強度設計 固い建築はもろい。
:自然の猛威に逆らわない→減衰設計をやらないともたない。
○阪神大震災にも粘り強く倒壊しない家屋
:地震時にまず、ヘビーヘッドの瓦が落ちて力を逃がし、土壁がおちる。
次に、貫が踏ん張る。貫の変形能力は大きい。貫は2番目のセイフティー→生存空間の確保
〇継手、仕口は一軒の家に12~13種類で良い。継手仕口で力を逃がす(私家版仕様書)摩擦面にカンナをかけてないと滑る。
〇山口大学:内田先生。沖縄の名護市庁舎担当:像設計集団の龍という事務所やっている。講演に行った。
○先人たちはどのような家をつくってきたのか
:靱性と復元力、めり込みと摩擦、伝統的な木組み、自然エネルギー、天然素材、吸放湿性で快適な体感、言わずもがなのルール、口伝と技能、町並みの規範、明治の分断、第二次大戦の敗戦、止まってしまった伝統工法の進化→アメリカ化
→今、断熱性能で北欧化しようとしている。
○わたしたちはいま、どのような家をつくっているのか
:阪神大震災、強固な耐震性、金物の多用、3.11原発事故、省エネルギー、断熱性能の向上、新しさの追求、個性の強調、町並みに無関係。
○わたしたちはこれから、どのような家をつくるのか
:命を守る家、粘り強い加工、足下フリー、足固め、貫、飽きのこない家、普遍性の追求、スタンダードなデザイン、暑さ寒さを取り除く、パッシブデザイン(自立循環型)、古民家に学ぶ、古民家の再生利活用、伝統構法を進化させる
○民家改修は、暗い寒い→明るく暖かく。解体は基本スケルトン。基本屋根は触らない。床下を内部と捉え床暖房。焼杉は安価
漆喰と無垢の木、トレーサビリティ、山の木(素材)から架構を考える。
「キューブタイプ」田の字型、「リニアタイプ」サの字型、伝統構法+温熱性能の向上(断熱は設備)
○新自由主義(叩き落とせの世界)→成熟した社会の実現、共存共栄の仕組み作り。
いつか、古民家になる。
第9回② 構造不具合の原因と対策⑤ 伝統木造の耐震設計の考え方 岩波正 2023.10.2
□限界耐力計算:伝統構法建築に向いた耐震設計法。
建物が地震の力を受けたとき、地盤や建物の状況をちゃんと把握して計算する優れた計算方法。
地震により、建物が損傷して変形し、そのまま倒壊するのか、それともどの零度で耐えるのかを計算により判断する方法。
□伝統構法の建物について言われていること
:伝統構法は柔構造だから地震に強い
:伝統構法は地震の力を受け流すから強い
:伝統構法は石場建てだから強い
:建物と地面が直結していないので地震力の入力を低減する
:伝統構法の建物は総持ちである
:伝統構法は建物全体で揺れを分散させるので崩壊しにくい
:仕口や継手が関節のようにある程度動かないと力を吸収できない
:伝統構法は免震構造である
:古い建物が何百年も建ち続けているのが強さの証明
→根拠を持つことが必要
□建築基準法で、伝統構法は置いて行かれている。
□伝統構法木造建築物に「限界耐力計算」が使われる理由
1.石場建て、金物不使用など建築基準法の仕様規定に合わないから
2.建物の固有周期が長い。動きが違うのを評価する
3.建物の構造的特徴が「限界耐力計算」で活かすことができる
:開放的な間取り(壁が少ない)
:貫や差鴨居、長ほぞ、落とし込み板壁
:垂れ壁、腰壁
:太い柱(傾斜復元力)、大きな梁
:格子板壁
□建築物の地震に対する安全性を検討するには(基本)
1.建物の耐力を計算する
2.建物に入力される地震力を計算する
3.両者の力を比較する
:建物の変形により建物の耐力は変わる
:建物に入力される地震力も建物の変形により変わる(小さくなる)
建物が変形すると固有周期が長くなる。建物の固有周期が長くなると、建物に入力される地震力が小さくなる。地震力より建物耐力のほうが大きくなり、変形はその時点で止まる。耐える。
□地震力より、建物の耐力が大きければ建物は倒壊しない。
□建物が、どういう状態(変形角)の時に、地震力より建物の耐力が大きくなるかを調べる。
□具体的には、建物の層間変形が1/120、1/60、1/30、1/15の時を検討する。
(H=3Mとして、1/120(25mm)、1/60(50mm)、1/30(100mm)、1/15(200mm))
□地震力の低下を利用するためには、
:建物の変形が進んでも耐力が落ちないこと
:仕口・継手に変形性能があり、こわれないこと。めり込みながら耐える。ことが必要。
:在来工法の安全ゾーンは1/30、伝統構法の安全限界が変わるゾーンは1/15
□限界耐力計算の概要 まとめ
:現代型木造住宅は剛性が高く、固有周期が短い。変形して固有周期が長くなる前に接合部が壊れる。だから耐力勝負するしかない。
(限界耐力計算をしても意味がない)
:開放的な間取りを活かした住まいを作るためには、少ない耐震要素をうまく活用する必要がある。それができる計算方法が限界耐力計算である。
:開放性の高い伝統構法の建物を現行の仕様規定でチェックするのは、超高層の建物を一般の中高層洋の基準で計算するようなもの。
:伝統構法の建物は、変形性能を考慮すると少ない耐震要素でっも大地震にも耐えることが出来る。しかし、変形が大きくなり固有周期が大きくなることが条件なので、大地震時は建物の変形が大きく、地震には耐えるが、仕上げなどの損傷が起こることは受け入れなければならない。
□建物の変形が進むと建物の剛性(K)が小さくなる
建物の剛性 K=Q(耐力)/σ(変位)
□建物の剛性が小さくなると固有周期(T)が大きくなる
建物の固有周期 T=2π√M/K M:質量
□地震により建物にかかる力は建物の重量に地震による加速度をかけたもの
Qn(地震力)=M(質量)×Sa(加速度)
□建物の重さが一定であれば建物にかかる地震力は地盤から建物が受ける加速度の大きさで決まる
S0:工学的基板上の加速度応答スペクトル
Gs:表層地盤による加速度の増幅率
□加速度応答スペクトルSa(Sad Sas)
稀に発生する地震 Sad=S0d・Gs・Fh・p・q・Z
極めて稀に発生する地震 Sas=S0s・Gs・Fh・p・q・Z
□表層地盤による加速度増幅率Gs
第1種地盤、第2種地盤、第3種地盤での計算式
□振動の減衰による加速度の低減率Fh
Fh=1.5/(1+10h) h=heg+h0=(1/4π)(ΔW /W)+0.05
□まとめ
:建物は地震による力を受けると損傷する
:建物が損傷すると変形し、剛性が低下する
:剛性が低下すると建物の固有周期が長くなる
:固有周期が長くなると建物に入力される加速度は小さくなる
:建物は振動を繰り返すことにより加速度は減衰する
:建物に入力する加速度が小さくなると建物が受ける地震力が小さくなる
:建物の耐力が変形しても落ちなければ、地震力より建物耐力が大きくなる地点がある
:その時の変形が建物の応答値であり、その変形角が伝統構法のように変形能力がある耐震要素で作られている場合、1/15より小さければ建物は倒壊しないと判断する。
:建物の倒壊を防ぐには、建物の加重を減らすことが効果的
スキルアップ講習会:第3回 住まいの診断レポート 2023.10.14
□住まいの診断レポート(建物調査診断報告書)
:非破壊検査のため、隠れた欠陥の有無を示すものではないことを
ご理解していただく。
:建物概要・法規制の確認。住まいの履歴のヒアリング。確認申請図面、
地盤調査資料等はあるか。
:事前調査(平面図をスケッチ。内外部調査方法。侵入口や荷物移動必要性確認。
調査スケジュール。駐車場など。
:地形図、ハザードマップの確認。平面図等の事前調査資料の作成。
Ⅰ調査診断結果:
調査実施概要、建物概要、現況平面図、現況写真、性能診断チャート、結果概要
Ⅱ各種診断結果詳細:
01耐久性(劣化対策)
1)調査診断項目の解説:建物状況調査(劣化事象の有無)、劣化対策調査(維持管理含む)、メンテナンス時期、アスベスト
2)建物状況(劣化)調査結果
(1)外部1.基礎:0.5㎜以上のひび割れ、0.15㎜の軽微なひび割れ等
(1)外部2.外壁・軒裏・雨樋:ひび割れ、サッシと外壁の隙間、腐朽等
(1)外部3.屋根・バルコニー:スレート割れ、変色等
(2)内部.天井・内壁・床:雨漏り、ひび割れ、沈み
(3)床下.基礎・軸組・地盤:基礎ひび割れ、鉄筋やガス管の錆び、根太たわみ、かび、断熱材脱落
(4)小屋裏・天井裏:雨漏り跡、断熱材変色、ハクビシン尿、かび、梁接合部割れ、束浮き
(5)設備配管・外構・その他:塀のれっけ、フェンス錆び
3)劣化対策性能
(1)外壁軸組等の防腐防蟻:通気構造、防腐・防蟻処理、軸組小径120以上、耐久性区分D1樹種、維持保全の強化
(2)土台の防腐防蟻:外壁水切、K3相当防腐防蟻処理、耐久性区分D1樹種、維持保全の強化
(3)浴室の防水:防水上有効な仕上げ、JIS規格A4416規定の浴室ユニット
(4)脱衣室の防水:防水上有効な仕上げ、JIS規格A4416規定の浴室ユニット
(5)地盤の防蟻:基礎内周20㎝部・束石周囲20cmの防蟻措置、べた基礎、土壌処理、コンクリ―トひび割れ、維持保全の強化
(6)基礎の高さ:地面から土台下端まで400㎜以上(300㎜以上)、基礎廻りの雨はね防止措置(軒900㎜)、維持保全の強化
(7)床下の防湿・換気:床下60㎜以上のコンクリ―ト、0.1㎜以上の防湿フィルム、湿潤状態にない、換気口(300㎝2/4m)、基礎断熱(100㎜以上コンクリ―ト)、維持保全の強化
(8)小屋裏の換気:有効な位置に2以上の換気口(天井面積の1/300以上)、給気口(天井面積1/900以上)と排気口(天井面積1/1600以上)90㎝以上離隔、湿潤状態にない、維持保全の強化
(9)床下・小屋裏の点検:区分された床下空間、点検口から目視等で各部を点検可能
(10)専用配管の構造:コンクリートに埋め込まれていない、専用配管の上にコンクリートが打設されていない、排水管の内面が平滑でたわみや抜けや変形がない、排水管に掃除口、トラップ設置
4)アスベストについて:平成18年(2006年)9月以降、石綿の輸入・製造・使用が禁止。建材の重量あたり0.1%超の石綿を含有する建材が規制対象。解体除去処分に注意。(化粧スレート、ケイ酸カルシウム板、リシン吹付け上塗装、左官材料)
5)★診断結果:※アスベストは得点に含めない。
02耐震性
1)調査診断項目の解説:基準の変遷と仕様、等級、地盤
2)地盤・地形
(1)自治体ハザード情報:液状化、土砂災害、水害
(2)周囲の地形:東側、西側、南側、北側
3)建物の耐震要素:多雪、Z、建物短辺、建物重量、構法、軟弱地盤割増、基礎、筋かい・土塗り、柱頭柱脚接合部
(PB下地クロス天井まで、ラスボード下地左官仕上げ天井まで、木製火打ち90*90ボルト止め、2階床下地バラ板t12根太95*35等)
4)架構(構造躯体)について:1,2階平面図に示す。2階の壁下の1階に柱がない位置等
5)★診断結果:精密診断法1の結果を表記し、所見を記入。
03温熱性
1)調査診断項目の解説:体感温度、ヒートショック、省エネ基準(等級4)、結露
2)各部位の断熱性能
(1)屋根・天井:仕様 クロス・PB9.5・GW10K50㎜・天然木材のU値0.91等
(2)壁:クロス・PB9.5・GW10K50㎜・天然木材・モルタル塗木造外壁20㎜のU値0.96等
(3)床:ラワン合板12㎜・GW10K50㎜・天然木材のU値0.89等
(4)開口部:金属製・単板ガラス・普通ガラス・雨戸等
3)気流止め:床下及び小屋組み空間が熱的境界内であれば不要。
4)自然換気量(漏気量):自然換気量の目安式、換気回数
5)熱損失計算結果:UA値 ※計算による
6)日射取得率計算結果:ηAC値 ※計算による
7)診断結果:UA値、ηAC値、内部結露の危険性、気流止め、自然換気量(漏気量)、著しい劣化事象、と所見記入。
04エネルギー性
1)調査診断項目の解説:2030年には温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減目標。家庭のエネルギー消費量は年々増加。
外皮熱性能基準+一次エネルギー消費量基準の2つの指標で省エネ基準を評価する。
2)設備機器概要
(1)冷暖房設備:ルームエアコン、ガスFFファンヒーター、開放型ガスファンヒーター等
(2)換気設備:台所壁付け第三種換気、浴室天井換気扇、便所壁付け第三種換気等
(3)給湯設備・水栓形状・配管方式:ガス給湯機エコジョーズ、シングルレバー混合栓、先分岐方式等
(4)照明器具:蛍光灯、LED等
(5)太陽光・太陽熱・コージェネレーション設備
3)光熱費分析
4)★診断結果:一次エネルギー消費量 基準値、達成結果、達成率
05バリアフリー性
1)調査診断項目の解説:住宅性能表示では、将来に備えておくべきバリアフリー性能を、等級2~5レベル別に定めている。
等級4を目標レベルとして評価する。
2)形状・大きさ
(1)特定寝室の大きさ・配置:6畳、8畳
(2)浴室の大きさ:短辺1300㎜以上かつ2.0㎡以上、1400㎜以上かつ2.5㎡以上
(3)便所の形式:腰掛式
(4)便所の大きさ:長辺1300㎜以上、前方または側方に500㎜のあき等、他あり
(5)玄関出入口の幅:有効750㎜以上、800㎜以上
(6)浴室出入口の幅:有効600㎜以上、650㎜以上、800㎜以上
(7)日常生活空間内の出入口の幅(玄関・浴室以外):有効750㎜以上、800㎜以上
(8)日常生活空間内の通路の幅:有効780㎜いじょう、有効850㎜以上等
3)段差・手摺
(1)玄関の段差(出入口):20㎜以下、靴摺と玄関土間5㎜以内
(2)玄関の段差(上がり框):180㎜以下
(3)浴室の出入口の段差:20㎜以下、浴室内外高低差120㎜、またぎ180mm以下
(4)日常空間内の段差:5㎜以内
(5)バルコニーの段差:180㎜以下
(6)階段(勾配):蹴上/踏面22/21、6/7、550㎜≦けあげ*2+踏面≦650、かつ踏面203㎜以上、
(7)階段(蹴込み):30㎜以下
(8)階段(形式):曲がり階段は設けない
(9)手摺(階段):片側設置、両側設置
(10)手摺(その他):便所、浴室、玄関、脱衣、浴槽廻り等
(11)落下防止手摺:床から1100㎜以上、窓台・足がかりから800㎜以上
(12)アプローチ:車いす困難
4)★診断結果:総合得点と所見
06火災時の安全性
1)調査診断項目の解説:避難安全、延焼防止
2)避難安全
(1)火源付近の内装(壁):半径80㎝の壁と下地が特定不燃材(PB12.5mm)、火気使用室全ての壁が準不燃材料
(2)火源付近の内装(天井):半径80㎝の壁と下地が特定不燃材(PB12.5mm)、火気使用室全ての壁が準不燃材料
(3)火災警報器の設置:すべての居室、階段、台所
(4)消火器の設置:火源付近を含む2か所以上
(5)2方向避難:すべての部屋から2方向避難が可能
3)延焼防止
(1)屋根:全ての屋根が不燃材料等で葺かれている
(2)軒裏:延焼の恐れある部分(全ての軒裏)が防耐火性能を有する
(3)外壁:全ての外壁が防耐火性能を有する
(4)開口部:全ての外壁が防耐火性能を有する
(5)周囲の建物:隣接建物すべてが防耐火性能を有するか空き地
4)★診断結果:総合得点と所見
Ⅲ添付資料:問診表、調査野帳、耐震性能計算書、温熱性計算書、一次エネルギー消費量計算書
第10回①:木造建築病理学の実践 豊田保之 2023.10.28
□性能向上リフォームのメリット
:建築工事費は下がることなく上がり続けている。
:国土交通省「住宅市場動向調査」「建築物リフォーム・リニューアル調査」によれば、
1)動機:1.住宅が傷んだり汚れたりしていた。2.家をながもちさせるため。3.台所・浴室・給湯器などの設備が不十分。
2)工事の目的:1.更新・修繕。2.省エネ3.増床。4.防災・防犯・安全性。5.バリアフリー。6.耐震性向上。
□光熱費調査事例
1)岩園の家:木造2階建て、延べ床176.85㎡(53.4坪):熱損失係数Q値:改修前7.83→改修後2.55
屋根:GW10K厚200、壁:鋼板サンドイッチパネル厚35、床:カネライトフォーム厚55、開口:アルミ樹脂複合サッシLOW-E
2)垂水の家:木造2階建て、延べ床195.88㎡(59.25坪):熱損失係数Q値:改修前4.68→改修後2.41
屋根:GW10K厚100×2、壁:壁断熱GW10K厚75、床:ポリスチレンフォーム厚50、開口:アルミ樹脂複合サッシLOW-E
エネルギー消費:80GJ→60GJ、20GJ節約でき、約6万円減 ※1GJ=1000MJ≒3000円(1MJ≒3円)
参考:有効な調査道具 折尺、レーザー距離計、鉄筋探査機、デジタル水平器、オリンパスTG6
傾き許容値 約0.35度(0.6%)早見換算表在り。※壁・柱・床の傾斜:3/1000~6/1000は瑕疵一定度存在。
※基礎クラック:0.3mm~0.5mmは瑕疵一定度存在。
参考:調査費用(~125㎡)90000+消費税
参考:断熱ゾーンは、どこかで線引きする。(リフォームは数回に分けて工事できる。調整がきく)
□Q*値(キュースター)W/㎡K:暖房区画内から流出する熱損失量合計/暖房区画床面積
(内外温度差が1℃の時、床面積1㎡あたりで流出):暖房する区画が対象となる。非暖房室への熱損失、壁内気流(漏気)による熱損失を考慮する。
□竹小舞土壁
○土壁外断熱木小舞片面土塗り真壁仕様 U値(熱貫流率)0.53/㎡K
○土壁外断熱木小舞片面土塗り大壁仕様 U値(熱貫流率)0.29/㎡K
木小舞8*30 基本は杉、檜の場合は乾燥材。木小舞の隙間21mm推奨。
○既存土壁の改修の場合:内に木小舞土壁新設、外に断熱材を貼り、既存土壁や木小舞を日射から保護。
□土壁の防火構造告示H28年3月
| 室内側 | 屋外側 |
| 土塗り壁で塗り厚さが40mm以上のもの(両面塗) | ー |
| 土塗り壁で塗り厚さが30mm以上のもの(両面塗) | 厚さが12mm以上の下見板 |
| ー 同上 ー | 新)塗り厚さが20mm以上の鉄網軽量モルタル |
| ー 同上 ー | 旧)鉄網モルタル塗り 又は 木ずり漆喰塗りで塗り厚さが20mm以上のもの 新)塗り厚さが20mm以上の鉄網モルタル 又は 木ずり漆喰 |
| ー 同上 ー | 新)厚さが15mm以上の窯業系サイディングを張ったもの |
| ー 同上 ー | 新)窯業系サイディング18mm以上(中空部を有する場合にあっては中空部を除く厚さが7mm以上 |
| ー 同上 ー | 新)硬質木片セメント板 |
□壁土が不燃材料に:厚さが10mm以上の壁土 令和4年5月31日公布施行 国土交通省告示第599号
□木製建具の気密をとるには、ピンチブロック丸型
□結露に注意:防湿層設置を省略できる要件あり。通気層を省略できる要件あり。
第10回②:マンションリフォーム 小谷和也 2023.10.28
□床は国産材杉、壁は珪藻土などを使った「木のマンションリノベーション」
:マンションスケルトンリノベーション(杉、檜)
:床板や家具は自然素材、大工施行
:断熱性能を高め、カビと結露を防ぎ光熱費削減
:無垢材+乾式二重床で遮音性能を確保する。
:通風、最高、家事動線確保。プランニング重視。
杉フローリング:30*215*1820 EVに載せられるよう、幅を大きく施行効率UP、実を丸くしはまりやすく、含水率12%以下。
□現状マンション
:ほぼ同じ間取り
:全て新建材・設備過剰
:風通しが配慮されていない。
:収納不足(洋室納戸化)
:おしゃれ感(ペンキ仕上げ、躯体むき出し、白い家)?
:ダサくて田舎臭いきの家(道の駅風)?→素材・性能・デザインは?
□顧客が抱える不安や悩み
:収納不足、風が通らない、暗い、狭い
:使い勝手の不満、家族人数の変化
:カビ、結露、厚さ寒さ
:新建材への不信感
□提供できるもの
:省エネ、家事や収納効率、快適性の向上
:騒音、断熱、寒気といった性能向上
:感覚的な広さ、高さ、明るさを向上する設計工夫
:長寿命な素材選択、イニシャルとランニングコスト※カラーフロアは8~10年ではがれる。もろさを身をもって知る。
□不満の解消なしにリノベーションは成り立たない。
□マンションは戸建てより快適か?
:南と北側部屋の温度差が大きい
:住戸位置による差(角部屋・最上階)が大きい
:コンクリートが蓄える熱が大きい(熱容量は土の1.5倍)
:気密性は高いが断熱性が低い
:窓だけでなく壁でも結露がおきる・カビの発生
□中古マンションの断熱仕様と対策
:PB+断熱材(厚10ボード系)はボード継ぎ目で結露、カビ多い。→全撤去の上断熱改修
:ウレタン吹付+GL工法の一般仕様→壁結露はほぼ心配ないが、硬質のため撤去難→上から吹付断熱改修
:断熱材の色:1992年フロン(イエロー色)、2003年代替フロン(グリーン色)、2015年ノンフロン(ピンク色)
□マンション外壁部の断熱の問題
:木造住宅では、通気工法・充填断熱。外にいくほど透湿抵抗を下げることで、外部に湿気をにがせる。
:RCマンションでは、室内→内壁仕上→断熱材→コンクリート躯体。外側躯体の透湿抵抗が高いため湿気が外に逃げない。
→躯体の室内側表面で結露が発生するリスクが高い。
1)乾式断熱改修 その1
:躯体内側にまずフェノバボードを密着させて貼る、間柱を立て、フェノバボードを柱間に充填する。
2)30倍発泡吹付断熱 その2 2015年ノンフロン(ピンク色)
:厚みを薄く吹ける、機材を宅内に持ち込んで吹ける工法」あり。発電機(エンジン)をバルコニーに置くと騒音。燃焼時シアンガス発生リスク。
3)シュタイコゼル(ドイツ)その3 ウッドファイバー:セルロース系でもよい。
:断熱性は高くないが、火災時の安全性と環境負荷の少なさ、吸音正と蓄熱性が優れたバランスのとれた素材。
□マンションの開口部断熱
1)内窓:CP最も高い。効果も高いが見た目は?
2)木製内窓、造作建具:気密確保に一苦労。コストほどの効果は望めない。
3)断熱ブラインド(例:ハニカムブラインド):冷え込みや日射防止。単体では結露が増す可能性も、内窓とセットが良い。
□玄関ドアをどうするか
:マンションドアは断熱不可が難。ドアポストなどもあり気密性も低い。
:間取りの工夫で配慮(風除室)。断熱戸の追加。(冬は断熱戸、夏は上下が空き網戸)
□住戸位置による厚さ寒さ
:角部屋や最上階など、外に接する面積が多い程熱損失は大きい。
:壁スラブ断熱60,最上階天井100,内窓+ハニカムブラインドを設置すると、今度は、隣に面する面積が大きいほど熱損失大きい結果となり断熱の限界。(隣は15%熱損失として計算)
□住戸位置と断熱改修
:角部屋、最上階、1階ほど、物件の面白み→断熱改修で快適性も両立させる。
□カビ結露対策
:24時間換気の付加。(使わないスリーブにレジスターを付けて吸気口に)
:ガス暖房、石油ストーブは、燃焼して水を出すため結露リスクがある弊害を伝える。
□床衝撃音低減性能について(推定L等級とΔデルタL等級)
:通常、集合住宅で、遮音等級L-45が求められる。軽量LL(小さく聞こえる)、重量LH(聞こえるがきにならない)
:推定L等級は、数字が小さいほど良いが、試験方法が曖昧で、実物件との乖離が大きいことが判明。
:ΔデルタL等級が、2008年新規格 試験方法が厳格。実物件との乖離小。数字が大きいほど性能が高い。(ΔLL1,2,3,4,5)
| 推定L等級 | ΔL等級 | |
| LL-40 | ≒ | ΔLL-5 |
| LL-45 | ≒ | ΔLL-4 |
| LL-50 | ≒ | ΔLL-3 |
| LL-55 | ≒ | ΔLL-2 |
| LL-60 | ≒ | ΔLL-1 |
□遮音フローリング
:マンション床材の歴史:畳、板張り→カーペット→遮音フローリング(クッション材と切れ目を入れ表面を柔らかくして衝撃音を抑える)
:パナソニックの直貼遮音フローリングL45の遮音性能はΔLL-3レベル。
:遮音フローリング+無垢板の施行は危険。
:防音マットでの遮音は物理的に難しい。
:マット系メーカーのカタログ値は試験方法に問題があり、実験値とも合わない。
:表面が硬い床構成では、現状、乾式二重床以外に遮音性能を確保する方法がない。
□直貼り床と乾式二重床
:直貼り:メリット(床高小、コスト、手間小?)、デメリット(不陸調整、性能?)
:乾式二重床:メリット(不陸調整可。配管スペース可)、デメリット(コスト、施行手間、太鼓現象)、ΔLL-3(推定LL-40)
管理規約の要求遮音性能がΔl等級にかわれば、使えない商品がほとんど。
ジャストフロア(竹村工業)木毛セメント板は、質量高く高性能、水に強くカビも生えにくい商品あり。(重く搬入難)
□乾式二重床の納まり
:掃き出し窓天端をFLにする手もある。配管スペース確保。
:床下空気層を密閉すると、空気バネで性能悪化(太鼓現象)浮かし巾木、たわみゴム使用。
□マンションで無垢フローリングを使う際の鉄則
:既存の合板遮音フローリング上に無垢フローリングを重ね貼りしない。
:無垢フローリング用遮音マット(LL-45)を安易に信用しない。
:引き渡し後に床の張り替えは無理。自己防衛のためにも乾式二重床を採用する。
:乾式二重床だからよい、ではなく、性能の確かな物を選ぶ。太鼓現象、固体伝播音の防止(ゴム)。
□マンションリノベのノウハウ
:管理規約に注意。専用部分のリフォーム内容。工期、仕様について、平面図・仕様書・工程表などを、1週間前までに提出。
□竣工図確認事項 ※竣工図通りに施行されていると思わない。あくまで参考として、現況状況を確認する。
:階高、スラブ厚、壁厚(矩計図・壁スラブ表)
:給水、排水、給湯、ガス経路
:換気経路、電気配線図
:断熱仕様、スラブ高低差
□建物調査
:採寸は写真撮影で残す。(引いて撮る。数値をアップで撮るを繰り返す)
:排水配管、PS確認、インターホン、分電盤確認、回路数、容量、オートロック連動、警備連動、コンクリート埋込みか
□マンションでの法規制 その1
:確認申請は不要だが法遵守
:内装制限 ※基本的に床は無垢材使用が可能
1)11階以上で床面積100㎡を超える
2)高さ31Mを超える高層住宅
3)床面1.2m以上を準不燃以上の仕上げ
4)原則、火気使用室の内装制限はない
□マンションでの法規制 その2
:24時間換気:壁増設は難。24時間換気付き浴室換気扇を選択。余ったスリーブを吸気口。
:採光・換気:住戸中央にWCLや納戸を集中させる。常時開放できる方法で仕切る。
□マンションでの法規制 その3
:共用部分に手を加えない。(躯体、サッシ、縦管)
:IHヒーターなどは電気容量を確認
:バルコニーには固形物の設置はNG
□管理組合に確認する。
1)カーペットからフローリングへのリフォーム
2)インターホン交換、給湯器号数の変更
3)非耐力壁(雑壁)の撤去
:コンクリート躯体は、クラック、不陸やたわみ、スラブは住戸内で30mm~50mmレベル差があることも。(管理組合に報告)
□不満を解決しつつ、終の住居としてのマンションリノベ
:ステイホーム→住まいの質を高めたい。
:「光熱費を節約したいから断熱改修したい」という人はいないが、結果的に付いてくる省エネの満足度は非常に高い。
:マンションに断熱改修なんて、もったいない、大げさ、という意識を変えてもらう。エアコン設定が高くても快適に暮らせる
:考え方や気持ちがアクティブになる。
:北側が使えるようになる。
:コンパクトな空間を有効に多様的に使うことは、古来からの日本人の住まいの美徳のはず。
□プランニングのポイント
1)可変性を持たせる
:可動家具や建具で間仕切りをかえられるように(日本家屋 田の字間取りの可変性)
:家族構成の変化に(あるていど)対応できる。壁の追加や解体といったリホーム不要。
:冷暖房、照明、プライバシーを検討。
2)いかに風を通すか
1.通風経路の確保:水回りにこそ通風を。建具の工夫
2.いかに光を入れるか:増やせない窓を120%活用。明るいところに居場所。暗いところを裏方に。
3.居心地を高める設計:南の快適性を北にももたらす。玄関を小さく。行き止まりをつくらない(廻れる動線)。全館空調
□マンションを終の住処にするための必要条件
:温熱環境、省エネ性能を向上させること:部屋間温度差の解消、住居有効面積が増える。健康にも影響大
:ライフスタイルの変化に対応できること:独立→里帰り→老後。人数や用途の変化を想定。高齢になって楽できるように。
:快適に住まうための設計上の配慮:飽きないデザイン、長寿命な建材、使い勝手と居心地(通風、採光、動線)、全館空調
□趣のある高断熱の住まい、とはどうあるべきか
1.断熱改修の目的:エアコンの使用時間を減らす。周壁面温度と相対湿度を安定させる
2.考えるべきこと
:春や秋はなるべきう通風のみで暮らせる間取り
:開口部断熱のデザインへの配慮(障子や木製建具)
:温熱環境についての正しい知識を伝える
※断熱改修した方がより自然で省エネな趣のある住まい方ができる。
