防火性能を上げるのに有効な手段は、防火サッシを入れる、天井を不燃材にする、部屋を整理し可燃物を減らす等があります。
防火性能を上げておくことは重要です。地震は崩れても残りますが、火事は何もかもが燃えて無くなります。 木は水分を含んでいて、実は火に強い材料なのです。消防が来るまで、20分間は耐えられる、燃え抜けない建築にすることが求められます。
防火性能の改善と対策 安井登 桜設計集団 2023.9
最新の法令基準を理解する~木造の可能性:木材の防火性能の再評価が行われている。第8回①
1950年 建築基準法:都市の不燃化 木造からRCへ
1987年 基準法改正:燃えしろ設計 2階建てまでで燃えしろ設計可能に
1992年 基準法改正:準耐火建築物の概念導入 3階建てまで45分準耐火構造による設計可能
2000年 基準法改正:防火法令性能規定化 木造耐火建築物の登場 防火地域や4階建て以上も木造化可能に
2010年 公共建築物等木材利用促進法制定 3時間耐火構造であれば階数制限無し→現在11階まで
→低層の建物は積極的に木造化を促進、中高層の建物は木質化しなさい!と規定(民間主導から国の主導へ)
2015年 基準法改正:法第21条、27条の性能規定化 1時間準耐火構造による木造3階建て学校の登場
2019年 基準法改正:耐火要件の性能規定化 高度な準耐火構造+安全上の措置による4階建て以上の建築物登場
2023年 基準法改正予定:延べ面積200㎡未満、3階建て以下は、一定の措置を講ずれば、法27条免除
(警報設備、竪穴区画(間仕切り壁+防火設備または10分防火戸)
:防火地域・準防火地域内の高さ2mを超える門・塀を不燃材以外で建設可能
(厚さ24㎜以上の木材で隙間なくつくる、土塗り壁30㎜以上)
2050年 カーボンニュートラルの実現?
○山にある木材は、枝打ちをしていけば無節の良い材料になる。
○もえしろ寸法として、集成材は35㎜、製材は節などの欠点が支配的になるので45㎜としているが、ゆっくり燃える順番は、
製材>単板積層材LVL>集成材となる。集成材は接着剤のところで炭が落ちるが、製材は炭が落ちずに形成されるため。
○木造とRC造・鉄骨造の何が良くて悪いのか?
①耐震性 ②防耐火性 ③断熱・気密性 ④遮音性(上下階・隣室)⑤耐久性 ⑥居住性 ⑦メンテナンス性
→④遮音性は、床を重く固くするRCにかなわないので、静かな環境が必要な部屋は上階に計画する。
→⑦メンテナンス性、傷むのは雨に濡れるところ。取り替えやすく
:火事は、なにもかも燃えて無くなる!
例:学校火災実験(学校は内装制限がかからない。)
床は1時間耐火構造で防火区画してあったが、天井が木質化してあったことが問題。
1階から出火した火は可燃物に燃え移り、3分でフロート硝子を割り空気が入り放題、1階窓から2階窓への延焼がおき約6分でフラッシュオーバー
対策:防火サッシ、天井不燃化(壁もそうだが)、庇・バルコニー(上階延焼防止)、出火防止
例:福岡・旦過市場火災2022年8月
木造モルタルの隣家が燃えなかったのは、隣り合わせに窓がなく延焼経路がなかったこと。
隣の建物が激しく燃えるのは20分間。大概消防車は10分で来る。20分間は保たせる。
例:新潟・糸魚川大火2016年12月22日 強風(瞬間風速24m)、消防車6台→130台、木造密集地
中華料理店から出火(鍋の空焚き)ダクト内火災。
小屋裏のダクトを抜いてある部分からくすぶり、いきなり小屋裏に火がでた。小屋裏火災は消火活動が難しい。
→ダクトは木に取り付けない、細い支持材で取り付けない(ずれる)
燃えなかった木造は、窓が防火戸であったこと。RC造も窓から火が入り燃えている。
→窓から窓へ延焼する。窓をずらすのも効果的。
焼けなかった奇跡の1棟と呼ばれたたてものは、比較的新しい建物に囲まれ、隣棟間隔が十分あった(1.8m、9m、11m)
:木造は燃えると焼損床面積が大きい。防火性能を上げると減る。
:たとえ火災にあっても、燃え抜けない建築 を建築基準法は求めている!
:木材は、1㎜/1分でゆっくり燃える(炭化)。15㎜で15分間燃え抜けない。
:PB12.5㎜は、15分間燃え抜けない、表裏で30分。水分を持っているため、燃えても100℃で温度停滞する。
:強化PB12.5㎜は、PB12.5㎜の2倍で30分間燃え抜けない。
:土壁4㎝は、1時間燃え抜けない。(隙間無ければ)
(支援機構の省令準耐火は15分燃え抜けないこと。)
○準防火構造:20分(隣の建物が激しく燃える20分間、火炎を貫通させない性能)
○防火構造 :30分(建物が燃え尽き崩れ落ちる時間)
○準耐火構造:30分、45分、1時間
○耐火構造 :30分、1時間、2時間、3時間
○防火設備 :20分
外部:隣棟火災は「燃え抜けない」が重要→木材を太く・厚く使う。
内部:内部火災は「燃え広がらない」が重要→連続して燃え続けないようにする。
:天井の不燃化、内装制限(煙がでないように)
:木材は酸素が足りてる時は有害なガスは出ないが、足りなくなると一酸化炭素がでる。
:木材は15%~20%の水分を持つので200℃以上になかなか上がらないが、木材は200℃でガス化し燃える。
:木材は本来燃えにくい。杉15㎜で内装木質化(壁・天井)しても、室内の可燃物が無ければ20分もつ。
杉15㎜は15%含水率として、750㎖/1㎡の水分を保つ。
:室内に可燃物が多いとフラッシュオーバーする。
:燃え方をコントロールする(ガスコンロ、薪ストーブ)
:天井を準不燃材料とすれば壁は木材で良い(1988年 H12建設省告示第1439号)
木材は良い材料:比重が小さく、軽い・熱伝導率が低く、熱が伝わりにくい、比熱が高く、暖まりにくく冷めにくい。
事例から学ぶ、防火性能を上げる改修方法 第8回②
長く残したい設計上の工夫
焼杉:仕上げを張って木造躯体を濡らさない。京町家:焼杉12㎜で30年~40年もつ。取り替え前提。
深い軒:屋根の軒を出して木造躯体を濡らさない。五重の塔(醍醐寺)
火災は成長する災害!
出火原因は、たばこ・ストーブ・コンロ・電気機器等、失火が多い。
住宅火災は建物火災の約半数、2.5人/日の死者、65歳以上の死者が7割強→火事は起こる前提で対策する。
建物被害軽減
:出火しない木造(火をコントロール)
:急激に燃え広がらない木造(天井不燃化)
:消せる木造(消防隊は東京で約5分、市街地で約10分で到着するが、危ないところには入っていかない)
避難安全
:逃げられる木造
:逃げなくて良い木造(バルコニーで待てる)
:助けてもらいやすい木造
耐火建築物(構造躯体)にしただけでは必ずしも安全な訳では無い。
木造とRCの違いは構造躯体だけ。仕上げ(内装・外装)、収納可燃物(家具等)が燃えて火災となる。
1.火を出さない
コンロ等の火源周囲から可燃物をなくす(80㎝、できれば1m以上離す)
8割が収納可燃物からの出火(収納スペースの確保)
放火対策(死角をつくらない)
2.火災を早く見つける
自動火災警報器の設置(H23~)
3.火を消す
消化器の設置、水の汲み置き、消火栓
4.火災を封じ込める
区画する(酸素供給を絶つ、扉を閉めるだけで有効)
5.煙から守る
不完全燃焼しにくい仕上げ材の利用
(フラッシュオーバーが起こるとCO10%前後発生する。0.1%に下げるには100倍の新鮮空気が必要になる、無理)
煙を排除する
(排煙・畜煙計画(自然排煙・天井高さの利用)
6.逃げる
避難路の確保(二方向避難、避難経路の可燃物の管理、バルコニーの有効な配置)
7.消防隊に助けてもらう
救助活動の阻害要因の排除
8.災害弱者を守る
高齢者、障害者、子供、寝たきり者
9.火災で倒れない
耐火と防火(十分な避難、救助時間を確保する)
地震と火災(地震で倒れず、防火性能は保持されるようにする)
※防火構造・準耐火構造は火災で倒れないための手段
①構造躯体:燃え抜けない、燃えて壊れない
②内装:燃えない、燃え拡がらない
③収納可燃物:燃えない、燃え拡がらない
構造躯体がゆっくり燃える又は燃えないようにすれば建物の防耐火性能は向上する。
:防火造 外壁・軒裏を防火構造→屋外火災に対抗
:準耐火構造(イ準耐火建築物)主要構造部を準耐火構造→内外火災に対抗
:耐火構造(耐火建築物)主要構造部を耐火構造→内外火災に対抗
※主要構造部:壁(外壁・間仕切壁)、柱、梁、屋根、階段
□建築基準法
:内装制限 避難安全性確保、出火防止(居住者が煙・火災にまかれない)
:防耐火構造性能 延焼防止、市街地火災防止(建物が崩壊炎上しない)
準防火地域の防火構造制限
:1,2階、500㎡以下→木造(その他)延焼の恐れある部分の外壁・軒裏は防火構造とする
:500㎡以上~1500㎡→準耐火建築物
法22条区域の防火構造制限
:床面積1000㎡以下の住宅は延焼の恐れある部分の外壁を準防火性能とする。
:床面積1000㎡超える住宅は延焼の恐れある部分の外壁・軒裏を防火構造とする。
防火構造
:外壁(耐力壁)非損傷性30分、遮熱性30分 ※非耐力壁は遮熱性のみ
:軒裏 遮熱性30分
準防火性能
:外壁(耐力壁)非損傷性20分、遮熱性20分 ※非耐力壁は遮熱性のみ
準耐火構造
:外壁(耐力壁)非損傷性45分、遮熱性45分、屋内側からの遮炎性45分
:外壁(非耐力壁)非損傷性ー、遮熱性45分、屋内側からの遮炎性45分 ※延焼の恐れある部分
:外壁(非耐力壁)非損傷性ー、遮熱性30分、屋内側からの遮炎性30分 ※延焼の恐れある部分以外
:間仕切壁(耐力壁)非損傷性45分、遮熱性45分
:間仕切壁(非耐力壁)非損傷性ー、遮熱性45分
:柱 非損傷性45分
:床 非損傷性45分、遮熱性45分
:梁 非損傷性45分
:屋根 非損傷性30分、屋内側からの遮炎性30分
:階段 非損傷性30分
【防火構造建築物】建物外周に防火性能:建物周囲の火災に抵抗。
延焼の恐れある部分の、軒裏:防火構造(30分)、外壁:防火構造(30分)、防火戸(防火設備)
屋根葺材:不燃材料等
【準耐火建築物】建物の主要構造部を準耐火構造とし、建物外部・内部を防火的に補強する。建物周囲・内部火災に抵抗。
延焼の恐れある部分の、軒裏(45分)、防火戸(防火設備)
屋根葺材:不燃材料等、屋根の屋内側又は直下の天井(30分)、軒裏(30分)
外壁(耐力)(45分)、外壁(非耐力)(30分)、間仕切壁(45分)
柱(45分)、床(45分)、梁(45分)、階段(30分)
「古い家を直す」改修で、防火性能を上げると耐震性能も向上する。
土塗り壁の防火性能に影響を与える要素
:土塗り壁厚さ(遮熱性)40㎜以上で防火構造
:柱と土壁の接合性(遮炎性)隙間ないように
:柱の炭化(非損傷性)
※土壁(裏返し塗りあり)厚60だと、800℃で60分加熱して漸く100℃
木材の遮熱性
:杉厚30㎜は、800℃で30分加熱して漸く100℃。杉15㎜は15%含水率として、750㎖/1㎡の水分を保つ。
水分があるうちは100℃を超えないが、100℃を超えると、そろそろ200℃でガス化し燃え抜ける
木材は、1㎜/1分でゆっくり燃える(炭化)。30㎜で30分間燃え抜けない。
外壁
:土壁をもとに戻す・傷んだ柱は補修する。耐震性能と防火性能を持つ面材で補強する(地震時に脱落しないように配慮)
軒裏
:燃え抜け防止性能が確保された仕様にする
:小屋裏に火を入れない
:野地板上部または面戸板からの火炎貫通を防止する
※軒裏の改修:別途参考資料あり
窓:隣家と近い場合は防火措置をする。(ずらす、網入り硝子、遮蔽板など)
屋根:不燃材料で葺く
消火器:出火確率の高い部屋に配置
住警器:出火確率の高い部屋に配置
内装材:出火確率の高い部屋の壁・天井を燃えにくいものにする。火源から80㎝以内には可燃物を配置しない。
木製格子:外からの火災に有効、室内への熱を遮る。延焼の恐れある部分の開口部には準遮炎性能(20分)が要求される。
防火・耐震化改修の意義と概念
1.地震時に、外壁モルタルや瓦が脱落して、下地材が露出すると燃え草となりうる。
2.火災時の建物の崩壊は柱の座屈によることが多く、壁を補強する必要が大きい。
3.耐震補強も防火補強も「壁」を補強するのであれば、両方の性能をもつ面材・塗り壁で補強すれば良い。
(グラスロック:吉野石膏、壁王:旭トステム、ニクスボード:日鉄住金鋼板)
改修仕様例
外壁:準耐火構造(45分)レベル H12建告第1358号
屋外側 窯業系サイディング16㎜厚、軽量モルタル15㎜厚、金属断熱パネル35㎜厚、土塗り壁70㎜厚
屋内側 土塗り壁30㎜厚、石膏ボード15㎜厚、強化石膏ボード12.5㎜厚、土塗り壁70㎜厚
軒裏:準耐火構造(45分)レベル H12建告第1358号
モルタル20㎜厚、硬質木片セメント板12㎜厚、面戸板45㎜厚+野地板30㎜厚
開口部:防火設備(20分) H12建告第1360号
アルミ防火戸、鋼製シャッター、石膏ボード+金属板、鉄扉
どの壁を補強するか
1.まずは、外壁屋外側を補強して、隣棟からの類焼を防ぐ(30分の遮熱性・遮延性・非損傷性)
2.そして、外壁屋内側を補強して、隣棟への延焼を防ぐ(30分の遮熱性・遮延性・非損傷性)
3.さらに、間仕切りを補強して、隣棟への延焼を防ぐ(30分の非損傷性)
密集市街地に準耐火建築物が増えると街としての防火性能が向上する。
火は、燃える物が連続して無い場合は、勝手に消える。