耐震改修低コスト工法講習会参加(名古屋工業大学高度防災工学研究センター主催)
南海トラフの危機感が強い、名古屋、高知、愛媛等では耐震化の取り組みが行政と一体となって大工、建築士、街ぐるみで進められています。その中で、できる限り低価格の、新しい合理的な工法が研究されされており、積極的に使うことと、補助金制度をうまく活用することがポイントとなっています。山口県においても、耐震改修には安価な工法が鍵になります。

木造住宅の耐震改修促進に向けた7つの鉄則というのがあります。
鉄則1:負担減で家主を「その気」に!
鉄則2:一般診断法から卒業→詳細診断法で精度向上(精算法、偏心率、N値計算)
鉄則3:必ず耐震改修専用工法を使う→部分合板張り工法(A工法)等
鉄則4:新築のことは忘れる→天井・床を解体せず壁の補強を改修設計の原則とする。
鉄則5:家主の求める安心に正しく応える→今の不安、どんな暮らしを望む、求める安心は?。
鉄則6:行政・地域・設計士のネットワークを活用する→安価にする技術を武器に行政・地域と協力して所有者に働きかけ必要
鉄則7:耐震改修も夢を語る→バリアフリー工事や水回りのリフォーム工事を一緒に提案し、工事完了後の満足度を上げる

天井・床・土壁を壊さずに耐震補強。部分板張りのA工法だけでも現在58種類の仕様があります。

「上下あき」を基本として適材適所で工法選択
天井と床を残したまま補強

第1回:達人フォーラム:伝統構法木造住宅の耐震改修 2023/3/19

伝統構法木造住宅とは
 伝統構法は日本古来の建築様式であり、西洋の合理的な影響を受けた在来軸組構法とは構造的な考え方が大きく異なる。在来軸組は筋かいなどの耐力要素で水平力に抵抗するのに対し、伝統構法では仕口や継手の変形で外力のエネルギーを吸収することで抵抗する。
■伝統構法の特徴として、
柱優先で通し柱が基本
2階床梁は柱にささり、胴差しは存在しない。
・石置き基礎だが、石は玉石、切石など地域により異なる。
・構法、屋根葺き材などは地域や時代により様々な仕様がある。
■一般診断法は、筋かいや構造用合板を用いた面材壁などを耐力要素とする在来軸組構法を対象とした診断の手法。伝統構法住宅の耐震診断・改修設計を適切に実施するには、精密診断法を用いることが不可欠。
■必要耐力を簡易Ai法で求める。実際の重量をだすのは容易でないので、建防協の簡易重量法を使い必要耐力を算定する。
必要耐力Qr=建物の重さW×地震層せん断力係数Ci
Ci=Z×Rt×Ai×C0 ∴Ci=0.2
 Z:地域係数 宇部は0.8だが1.0とする
 Rt:振動特性係数 木造住宅は1.0
 Ai:高さの分布による係数 1階は1.0
 C0:標準せん断力係数 0.2以上
つまり、必要耐力は、建物の重さに地震層せん断力係数0.2を乗ずれば良い。
伝統構法木造住宅は本来、限界耐力計算が望ましく、以下のような書籍があるが、建物の内容を正確に入力することは現実的に難しい。
■地震時、在来工法は比較的短周期に共振、古い在来木造は中くらい、伝統工法住宅は比較的長周期に揺れが大きくなる
■地震周期によって被害のでやすい建物は変わる。
■加速度応答スペクトルより建物の耐力が勝れば、変形が止まる。
■豊臣秀吉は人口増加から2階建てを推奨。
■平均天井高が1.4m以下で2階の剛性が高い場合は平屋の扱いが出来る。例えば外周が土壁で開口部がその通り幅の1/2以下であれば平屋として診断可能。2階の荷重は平屋の屋根荷重として別途追加で見込む。
■土台のない壁は耐力壁として評価できません。外壁側の基礎が無い部分には、添え土台を回し、この添え土台を使って柱仕口金物を取り付けます。両側の柱にほぞ差し以上の((ろ)以上)の金物をつけて土台を新たに設置すれば耐力壁とみなせる。
■新設する柱や土台の径は、90角よりも大きな断面サイズとし、原則は既存部分の柱径にあわせる。金物は、柱勝ちの場合の土台は(ろ)以上の金物、土台勝ちの場合はN値計算で求められた必要金物以上のサイズ。
■N値(と)の箇所に(は)の金物を施工して接合部Ⅱとして評価することは妥当。不足した耐力分を他の壁面で充足することができれば、あえて接合部ⅡやⅢを選択することも効果的な選択。
■ねばり強い耐力壁を実現するには、面材よりも仕口金物を十分強くし、金物で壊れないようにすることが大切。
■木造住宅の耐震改修は、損傷はあっても建物を倒壊させないというのが建築防災協会の指針の基本的な考え方。

第2回:達人フォーラム:精密診断法、簡易Ai法のススメ! 2023/3/29

○精密診断法は、部位毎に劣化度を入力できるので一般診断法より有利。
○基準耐力の上限値が10KN/Mの一般診断法より、基準耐力の上限値が14KN/Mの精密診断法は有利。
○短辺割り増しは精密診断法よりAi診断法が有利。
○一般診断法の軽い建物・重い建物・非常に重い建物と、屋根・外壁・内壁の仕様がことなれば、Ai診断法が有利。

第3回:達人フォーラム:伝統工法の耐震改修  2023/4/30

伝統工法は歴史と文化を今に伝える地域の宝。適切に改修することで次世代に伝えよう。
※典型的な伝統工法住宅は、土台に相当する部材が無く、構造的には足固めが不十分。柱の上部には鴨居を兼ねた立派な差し鴨居があり、この差し鴨居と一体化した垂れ壁を梁とする柱脚ピンのラーメン構造が伝統的構法住宅の構造形式。貫を現わしとした土壁も伝統工法の特徴。
○伝統工法建物の改修にあたっては、耐震性をあげるには、軽い屋根に吹き替えるのが有効。屋根を軽くしないのであれば壁を増やす必要が出てきて間取りを大きく変える必要がでてくる。屋根の改修は、本来最後の手段の位置づけだが、伝統的工法は例外。
乾式瓦屋根だと、初期2.4kN/㎡→1.30kN/㎡、ガルバニウム鋼板だと0.95kN/㎡にまで軽くなる。
○伝統工法の2階は壁が多く、柱の多くが通し柱であることから、2階の改修は不要と思われる。評点が低くても気にせず、1階を改修するのが良い。
○強い耐震壁にする程、荷重を大きく負担するため、引抜力も大きくなる。柱に適した金物補強をするとともに、梁の接合部も金物補強する。
○柱の脚部が石に乗っている場合が多い。脚部を固めたいので、コンクリート布基礎あるいは、土間コンを打ち、柱に沿わせて土台を設け、金物で固定し、基礎Ⅱとする。基礎Ⅰはハードルが高い。土台の無いところには柱仕口金物は入らない。足下を固める工夫をして、適切に柱仕口金物を入れる。

第4回:達人フォーラム:A工法のここが聞きたい  2023/5/14

○A工法とは、愛知建築地震災害軽減システム研究協議会が、既存住宅の耐震改修工事に向けて、新しい耐震改修技術の開発に取り組む中で生まれてきた安価な耐震改修工法。
○入隅仕様のあるA工法は、下地材の勝ち負けで低減係数が変わる。0.5から0.7。低減させたくなければ、アルミアングルの真壁仕様にする。
○1面材に対して一つのΦ150の穴は良い。
○桟材で囲まれた区画毎に□500mm以下の開口部は良い。

第5回,第6回:達人フォーラム: 多雪 2023/6/4,7/4

○常時は固定荷重と積載荷重。短期として追加される積雪荷重と風圧力、地震力は同時には来ないと考える。多雪地域では、非超過確率1%となる2.7mを設計荷重の基本値とするが、同時に起こる確率は非常に低いため、平均値でよいとして、0.35の値が採用されている。
○過去統計からみて、積雪と地震が同時に起こると考えるのは歴史的にみても非現実的であることがわかる。又、耐力も安全値をとっているので積雪は平均値で考えることにしている。

○耐震計算は、精算法・偏心率・N値計算を3点セットとする。精密診断では、壁基準耐力評価の最大値が14KN/mとなる。
○多雪地域では、積雪加重の影響で目標評点がでにくい。積雪の屋根や外壁、内壁、床の加重を選択し、各部位の荷重を個別に設定できる簡易Ai法が、より現実に即した加重で目標値に到達しやすい。接合部Ⅰだと金物も大きくなる。低減がかかっても、接合部Ⅱとして計画するのが良い。工事費削減にもなる。
○接合部Ⅲから接合部Ⅱに上げるだけでも評価できる耐力の増加は大きい。施工が容易で耐力の高い「へ」の金物を取り付ける。「へ」の耐力である10KNを超える引張り力にも粘りを発揮してくれる。
○必要金物「と」以上の柱は、金物「へ」接合部Ⅱで補強。
○「へ」の金物は、オメガプレート、スリムベビー、シナコーナー等がある
○劣化度は、初期は「無し」とし、個別に変更する。部材ごとに劣化程度を設定するため、建物全体に一律の劣化低減係数がかからない。部分的な劣化補修の効果が評点に反映される。
○多雪地域は、耐力壁をいくらいれても評点が上がりにくい。無理のない評点0.7迄の段階的改修を提案する。
○土壁に真壁+大壁のダブル補強。A433+A213
○既存の間柱に配慮し裏桟無しの工法採用。A213、A413、A433
○内壁には、床・天井をさわらない上下あき面材工法採用。A433
○接合金物を大きくしないよう「筋交いのカット」
○接合部Ⅰが難しい時には、接合部Ⅱとする。
雪を見込んだ場合、押さえ効果で引抜きが押さえられ、N値計算や偏心が有利になることもある。一方、雪荷重で重くなり地震力は増加する。同時に総合チェックし、最低評点を採用する。
○多雪地域での診断は、屋根荷重を2重にカウントしているようなもの。耐震診断的には1.5階建てや2.5階建てのように考える。それなりの壁量が必要となるので、一部の開口部を塞ぐこともやむを得ない。まずは目標評点0.7。
○現況診断の時からN値を考慮し、壁の持つ耐力を正しく見積もる。
○面材補強をおこなったら一般区域での診断結果も確認し、その時のN値計算による接合金物を両端の柱の柱頭柱脚に設置。
○補修工事をおこなう部屋数を可能な限り少なくし、後期短縮・費用圧縮。
○柱接合部の妨げになることが多々あるので、筋交いによる補強は避ける。
筋交いを設置すると、両端の柱には大きな接合部金物が必要になりがちであるが、筋交い金物と柱接合部金物の併設は難しい。
○面材補強をおこなう際は、両端の柱の柱頭柱脚にN値計算による金物を設置。
○まず、面材+接合部補強で考える。
簡易Ai法は、例えば「重い建物」の中でも、屋根や外壁、内壁、床の加重を選択し、各部位の荷重を個別に設定できる。壁の劣化度も個別に指定できるため、屋根・壁の一部が乾式なら、劣化が一部であったら、迷わずに精密診断 簡易Ai法を選ぶ。一般診断では、全体に劣化をかけてしまう。

結果、簡易Ai法
の評点は高くなる。

第7回:達人フォーラム 劣化について考える 2023/8/19

論文によると:表面に生物劣化があっても躯体に生物劣化が生じているのは1.6%と少ない。2階は特に少ないが、1階の外回りには注意。
建防協では
1.蟻害があれば対象外で専門家の判断を仰ぐ。外観・内観で劣化があれば、精密診断をする。
2.一般診断では劣化低減表に基づき0.7まで低減をかける。外壁の劣化はW低減がかかっている。影響大と判断している。構造に影響を与えやすい。
3.精密診断では、耐力壁の周囲に劣化があるかどうかで低減をかける。2階の劣化による低減は小さく影響度は小さいと考えている。一方、1階の劣化の低減は高耐力壁ほど大きく影響度大ととらえている。著しい劣化低減は、金物無し(ほぞ差し程度:接合部ランク4,3)と同じ低減となる。柱接合部低減と劣化低減のうち、小さいほうの低減をかけることになっている。実際、昔の建物には金物は入っていないので、劣化低減は接合部低減を上回ることはない。接合部に金物を使い、接合部をランク1に修繕した場合、あわせて劣化箇所を修繕しないと低減はあがらないよと言っている。(隠れた意図)
4.劣化の位置によって低減がかかる。柱よりも梁の劣化を重視。鉛直力(軸力)を支える柱はさほど心配ない、中間部であれば壁が守ってくれていると考えるが、梁には地震時には違った力やモーメントがかかる。その場合の折れや力の伝達を重要視しているため修繕してほしいと考えている。特に接合部付近を重視。金物を設置するとともに修繕することを示唆している。
5.劣化の原因(部材)を取り除き、交換部材と既存部材が一体となるように、接合部を補強する。(金物併用)
:劣化をすべて直すことはできない。急激に進行するものでなければ放置もやむをえない。

どこまで補修対象とするか難しい。変色していてもドライバーが刺さるかが修繕する目安。(色合いで判断することも)
:床下は構造的には問題ない。土台は一旦力を受け止め基礎に力を流すだけ。腐り撤去し添え柱。蟻は桧は食べないが松は良く食べる。小屋裏まで上がられると松が多くシロアリ天国となる。上がらないように壁も注意する。
基準法で、欠損は1/3までは良いとなっている。埋木、添え柱。力がかからないところは問題ない。壁で覆われるところは面材補強される。若しくは低減かける。
:割れや傷の補修時、ボンドだけの場合もあれば、ビス、釘、コーチボルト、金物プレート併用等。引張のかかるところはボンドは弱い。
:総体的に判断する。劣化場所が大きな力を負担するところか。あまり神経質にならない。

第8回:達人フォーラム 剛床仮定を問う 2023/10/15

剛床仮定とは、床、天井、屋根などの水平構面が十分な剛性と耐力を有しているという仮定。
剛床が成立すれば、層せん断力はその層に存在するすべての耐力要素がその剛性比率」に応じて負担すると考えることが可能。

合板床の1/20以上(F=0.05)の床剛性があれば良い。(224の実験結果)
F=1.0(合板床)に対し、F=0.2(火打床)も同程度の変形比率。※F=0.2は8畳の四隅に火打ち1つの目安

〇片流れ下屋の水平せん断実験において、山形プレートの効果が認められた。
〇切妻下屋の水平せん断実験において、母屋に垂木を合い欠きして取り付ける効果も確認できた。剛性は低くなるが耐力がある。

〇6.2.4耐震要素の配置に関して(建防協資料)
(2)建物の形状が平面的、立体的に成型でない場合には、耐震要素を増やし、床面の剛性・耐力を確保する。
(3)下屋部分の耐震要素の性能を効果的に発揮させるために、下屋の面内剛性・耐力を確保する。
:吹き抜け部の火打梁又は火打ち金物、あるいはキャットウオーク設置、(ブレース)
:下屋の天井を解体し、受け材を用いた真壁壁仕様を床に用いる。四隅は接合部金物